研究課題/領域番号 |
16KT0123
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
北中 淳子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20383945)
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研究分担者 |
鈴木 晃仁 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (80296730)
繁田 雅弘 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (90206079)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 認知症 / 医療人類学 / 精神医学 / 予防医学 / 疫学 / 当事者運動 / 医学史 / 病いの経験 |
研究実績の概要 |
当該研究課題の初年度は、理論的検討と文献調査を進めつつ、複数のフィールドサイトでの研究協力体制を固めると同時に、海外での招聘講演を通じて得た知見を基に予防医学に関する国際比較的分析を行った。具体的には、①認知症早期発見に関する文献調査と医師を対象とした聴き取り調査を行った。特に久山町を3回訪問し、久山町研究での中心的役割を担う医師や保健師の方々とのディスカッションを重ね、住民の集会に参加し、インタビュー調査への協力を得た。②研究分担者である繁田教授と臨床現場のでの研究(主に参与観察)を半年以上行った。③当事者運動に関しては東大の当事者研究グループとのシンポジウムや認知症当事者の集会での意見交換を行った。その成果を当事者研究の新しい展開を論じた「語りに基づく科学:当事者/科学者の誕生」という論文にまとめ、『現代思想』に発表した。④海外での招聘講演を通じて、認知症、疫学、予防医学に関して海外の専門家たちとのネットワークを構築した。スイスのブローシャー財団、マギル大学、台湾中央研究所での招聘講演において、予防的精神医学に関する人類学的視点を論じ、ヨーロッパ、北米、アジアの研究者達と意見交換を行い、本研究に関しても新たな分析の視点を得た。国際的な予防医学の動向については「グローバル・メンタル・ヘルスの時代」を多文化間精神医学会雑誌に発表した。⑤ヴァンダビルト大学・医療・健康・社会センターでの認知症に関する招聘講演から、カナダ、イギリスとの共同研究の可能性が浮上している。2月にはジョンズホプキンス医学史の学部長であるジェレミー・グリーン先生をお迎えし、研究分担者である鈴木晃仁先生とコミュニティ・ヘルスに関するシンポジウムを開催したが、多数の領域からの専門家が集う盛会となった。一連の研究会での人的ネットワークを通じて、次年度以降国際比較の視点をより強めた研究へと発展させる準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に、認知症の疫学と早期発見の歴史研究と国際比較、認知症の臨床実践に関する参与観察、当事者運動の分析の三つの軸で研究を進めた。①スイス、カナダ、アメリカ、台湾での4つの招聘講演を通じて、日本の認知症医療・疫学・予防医学に関する特徴と、人類学的論点を明確化できた。英国・北米の研究者とのディスカッションを重ねることで、超高齢化社会の先端を行く日本が、この領域において他国のモデルとみなされており、日本の認知症政策や医療実践、当事者運動の在り方にもかなり独自な展開がみられることが確認できた。特に久山町研究に関しては、海外の疫学研究者やエピジェネティックの専門家も非常に強い関心を示しており、今後本疫学調査の歴史と現在の予防医学的介入の在り方にもより焦点を当てて研究を進めたい。②メモリークリニックでの参与観察と、久山町での医師に随行しての臨床実践の観察、医師・保健師のインタビューから、都市部での日常生活に違和感を抱く人々が自ら訪れるような早期発見の場と、地域全体で認知症予防に取り組んでいる地方共同体で、人々の健康観や老いがどのように語られるのか、人類学的考察を行った。さらに、繁田医師のご紹介で、認知症専門家の話を伺い、国内の専門家の間でも早期介入についてどのように異なる論点が発展してきたのかについて歴史的経緯を整理できた。③当事者運動をめぐる従来の論点を整理し、日本も含め現在みられる新しい展開について論文化した。現在も、認知症の当事者運動は驚くほどの速さで発展しており、特に海外との交流をにより運動自体も急速にグローバルな展開を見せている。今後は、現在得られている人類学的洞察をより系統的な聴き取りを行うことで、実証的に分析したい。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に築いた研究協力体制を十分に活用して、複数のフィールドに入り、参与観察・聴き取り調査を含んだより長期間の、本格的な人類学的調査を行うことに主力を注ぐ。①前期は都内のメモリークリニックにおいて参与観察のみならず、当事者とその家族の方々にインタビュー調査へのご協力を呼びかけ、賛同を頂いた方々に聴き取り調査を行う。また、夏以降久山町では集団健康調査の際に医師に随行して、参与観察を行うとともに、住民側の聴き取り調査を行う。東京と地方の異なる生活環境・医療体制の臨床の場で、人々が認知症について、また早期発見や介入についてどのように考え、何を実践しているのを明らかにする。後期は聴き取り調査を続けると同時に、インタビュー・データの整理と分析に入る。②予防医学と当事者運動に関して、海外との比較を軸に研究を進める。現在キングス・コレッジ・ロンドンの老年学研究センターの研究者たちとの連携や、マギル大学の「健康な脳」に関する研究班との共同研究の話があり、可能であれば夏に意見交換を重ねて、国際比較の視点をさらに強めた視点から研究を行いたい。③今年度11月のアメリカ人類学会では、ジェレミー・グリーン先生とハーヴァードの科学史家、レベッカ・レモフ先生といった著名な研究者とのコミュニティヘルスと監視テクノロジーに関するパネルを企画しており、久山町研究を主に、予防医学に関する人類学的分析を発表する。④3月にはマーガレット・ロック先生を慶應に迎えて認知症とエピジェネティックスに関する国際シンポジウムを開催する予定である。連携研究者のスケジュールがあえば、一堂に会する機会となり、あらためて人類学、歴史学、医学の異なる観点から、日本の認知症医療と、予防医学について論じ、その成果の一部を論文化したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入予定であった書籍の日本円換算代金が、予定よりも少ない額となったため、残金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに購入する書籍代の一部として使用する。
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