人や物の移動に付随して意図せず運ばれた植物は、原産地を遠く離れた地域に定着し、世界各地で原生自然に代わる新しい環境を創り出してきた。外来植物の分布拡大の要因と影響は、個別の植物を既存の枠組みで局所的に分析するだけでは全体像を把握できないため、世界総体を単位として学際的に研究すべき「グローバル・イシュー」である。本研究の目的は、南米原産の外来植物が東南アジアに創出する新しい環境について、ミクロな生物学的分析を越えて、大陸部アジアを横断する空間的スケールで、生態、社会、文化、歴史的側面もふまえて総合的に研究し、地域に適した環境保全のあり方を考察することである。研究4年目となる2019年度には、2019年5月12日から5月23日までラオス中部ビエンチャン県と北部シエンクワン県・フアパン県、2019年10月6日から9日までカンボジアのシエムリアップ州において、土地利用ごとの外来植物の分布と、その来歴や住民の認識を調査した。ラオス中北部では、ヒヨドリバナ類、シロバナセンダングサ類、ニトベギクなど、中南米原産の主要な外来植物に対して、野菜や薬などの利用法が認識されていた。カンボジア・シエムリアップ近郊のアンコール遺跡群では、街路樹や被陰樹としてアメリカネムノキ、カマバアカシア、ユーカリなどの外来樹種が多く植栽されているが、カンボジア政府はフタバガキ科のDipterocarpus alatusやマメ科のビルマカリンなど在来樹種に植えかえるプロジェクトをすすめていた。Srass Dom Rey遺跡のゾウの石像前の祭壇に中米原産のプルメリアが植えられており、プルメリアが東南アジアに聖木として受容された経緯も興味深い。
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