研究概要 |
β4GalT-I KOマウスが自然発症するIgA腎症の病態の進行を明らかにするために,生後2ヶ月齢から12ヶ月齢にわたって2ヶ月ごとに複数匹のマウスの腎臓切片を作成し,PAS染色による糸球体の病変領域の同定,PAM染色による糸球体硬化の程度,蛍光免疫染色によるIgAとC3の沈着程度について定量的な解析を行った。β4GalT-I KOマウスのIgA腎症病変は,生後2-3ヶ月齢ですでに75%の糸球体が分節性病変を示し,12ヶ月齢では25%の糸球体が全節性の病変に進行した。糸球体硬化も半年齢までは約20%の領域が,半年齢から1年齢では約30%の領域が硬化病変を示した。また,IgAとC3の沈着も生後3ヶ月齢から顕著に見られ,加齢と共に沈着の程度が進行した。以上のことからβ4GalT-I KOマウスは,2-3ヶ月齢の若年からIgA腎症を発症し,患者と同じように糸球体病変が進行することがわかった。これまでの結果と今年度の結果をまとめて,Am J Patholに論文として発表すると共に,平成15年4月に出願していた特許「IgA腎症の治療薬のスクリーニング方法」が,平成18年6月に登録された。 一方,β4GalT-II KOマウスの乳腺の発達異常については,分娩前後の乳腺上皮の増殖が有意に低下していることを見いだし,乳腺上皮の初代培養系を樹立した。また,C57BL/6に戻し交配したβ4GalT-II KOマウスの一連の行動学的解析から,このマウスは情動性が低い傾向にあり,強い刺激の記録には問題がないが,正確な空間記憶に問題があり,運動学習にも顕著な障害があることが明らかとなった。脳での機能的糖鎖の発現を解析したところ,HNK-1の発現が顕著に低下していることがわかり,行動学的異常の一部はこれが原因であることが示唆された。
|