触媒反応における生成物の振動・回転エネルギーは遷移状態の構造や脱離ポテンシャルに関する情報を含む。これを各脱離角ごとに測定すれば、さらに多次元的な情報を得ることができると期待される。赤外発光分光を用いた生成CO_2の内部エネルギーは25年前から行われてきたが、角度分解測定は実現されていなかった。その理由として角度分解測定では微弱な信号がさらに3桁さがること、さらに試料表面から検出点まで長い距離が必要でその間で生成CO_2が散乱されないようにする必要がある等、測定が非常に困難であることが挙げられる。今回の基盤研究(B)の援助により、このような生成CO_2の角度分解赤外発光測定を目的とした装置の主に真空排気系および光学系の改良を行い、Pd表面を用いてこの測定に初めて成功した。 装置は2枚のスリットにより仕切られた反応室、コリメーション室、分光室からなり、それぞれ独立にターボポンプを新たに取り付けて排気するようにした。表面で生成したCO_2は2枚のスリットを通過したあとその発光を分光室中のCaF_2レンズで集光し、FT-IRで検出する。新たに金コート凹面鏡をレンズ焦点付近に設置し、周辺を冷却板で囲い、微弱信号の感度を上げた。分光室には四重極質量分析器を新たに取り付け、生成CO_2の脱離角分布も同時に測定することができるようにした。Pd多結晶では生成CO_2の脱離はほぼCOS^6θにしたがって表面垂直に指向した。一方、振動・回転温度は角度の増加にともない増大することを見出した。またPd(111)上では振動温度はほぼ一定であるが、回転温度は角度とともに増加した。CO_2の並進温度は通常脱離角が指向角からずれると減少することが知られている。本結果はCO_2の脱離に際して脱離ポテンシャルの立体的形状を反映して反応熱の並進・振動・回転エネルギーへの分配が脱離角とともに変化することを示唆する。
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