気相反応の反応ダイナミクスでは生成分子の振動・回転状態を角度分解で測定しポテンシャル曲面を調べる研究が多くされてきた。表面反応では技術的な問題によりその様な試みは光・電子励起脱離において僅かに報告例があるのみで脱離角依存性は観測されず、熱反応においては試み自体が皆無であった。本研究により表面熱反応の代表であるCO酸化反応の生成CO_2の振動・回転状態を赤外発光分光により角度分解で測定する装置を作製し、測定に初めて成功し、顕著な角度依存性を見出した。この装置では同時に脱離角分布の測定も可能である。 本実験では2枚のスリットを通過したあとの生成CO_2からの発光を検出する。角度分解しない測定に比べ微弱な信号強度がさらに3桁下がり、生成CO_2が一回も散乱されないことが必要があるため困難である。そこで試料と円錐型第一スリットの距離を4mmに抑え4本の超音速分子線源でCOと酸素を斜めから試料に照射した。高い排気性能を実現し、検出領域を冷却板で完全に囲うなどの改良を行った。さらに小型の高温CO_2漏れ出し分子線源を作製し、1200KのCO_2分子線を生成CO_2と同じように拡散させ、この発光強度を参照として生成CO_2の非対称振動温度と屈曲・対称伸縮振動温度を分離して求めた。 700KのPd(111)では脱離角が0度から30度に増加と平均振動温度は2300Kから1600Kに減少し、回転温度は350Kから1100Kに増加した。非対称伸縮振動温度は1300Kから1600Kに増加した。溝を持つ600KのPd(110)1×1では溝平行面では平均振動と回転温度は1500Kと1000Kで一定であるが溝垂直ではそれぞれ300Kと450Kに減少した。Pd(110)1×2では溝平行でどちらも数百K減少し、溝垂直ではどちらも数百K増加した。1×1では遷移構造がが溝平行、1×2では溝垂直面内で傾いていると推察した。
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