研究概要 |
原索動物の横紋筋と平滑筋において,Ca制御蛋白質トロポニンによる筋収縮(アクチン,ミオシン相互作用)制御がどのように機能的多様性を示すかを検討した。1)まず,ナメクジウオ(B.belcheri)横紋筋トロポニンについては,トロポニン3成分(TnT,TnI,TnC)の組み替え体蛋白質の複合体が,アクトミオシンATPase活性をCaイオン非存在下で阻害し,Caイオン存在下で高めないことなど,機能的に脊椎動物横紋筋トロポニンに類似するものの,Caイオン非存在下での抑制は軽微であることを観察した。一次構造面でのトロポニンの系統学的な類似性を比較したところ,ナメクジウオのトロポニン3成分はいずれも,脊椎動物横紋筋のものよりも無脊椎動物のものに類似性が高く,またホヤ平滑筋トロポニン3成分はナメクジウオよりも脊椎動物横紋筋のものにやや高い類似性がみられた。機能的な類似性と構造的な類似性の食い違いは興味深い。2)次に,カタユウレイボヤ(C.ifltestinalis)成体の平滑筋トロポニン3成分の組み替え体蛋白質の作成に成功した。その機能特性は,基本的には脊椎動物の横紋筋型の性質を示した。しかし,TnI単独の抑制作用は脊椎動物の横紋筋型のものに比して軽微であった。3)線虫で見出された原始的な筋様細胞に存在するトロポニン(特にTnI)の機能的役割を知る手がかりを得るために,トロポニンの特性を2次元電気泳動法で解析した。線虫TnIには等電点が中性付近にある沢山のアイソフォームがあり,脊椎動物のTnIが塩基性蛋白質であるのと異なることがわかった。線虫横紋筋のトロポニンと筋様細胞トロポニンとの異同は今後の課題である。4)トロポニンが機能するためにはトロポミオシンを介したアクチン線維との結合が欠かせない。この結合をトロポミオシンと競合するコフィリンの筋細胞での活性制御の仕組みを明らかにした。
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