研究概要 |
今年は文献調査と現地調査の結果に基づいて、次のような研究成果を公表した。 1、陳立行「昔の主人公は今どこ」、『特集中国社会構造の変容』、勉誠出版、2006年1月 このコラムでは、長春市の現地調査に基づいて、市場経済への転換に伴う社区の実態について語られている。爆発した経済の活気の裏で、「急功近利」や「浮燥不安」や「惟利是図」のような精神状態が成功者にも、失敗者にも、裕福層にも、貧困層にも広く見られる。その原因の一つは地域社会の完全崩壊だと考えている。計画経済体制により作られた「単位社会」が崩壊し、新たな社区は階層分化の結果となっている。人々は裕福層の社区に入るためにこれまでの精神構造が大きな変容が迫られていると述べられている。 2、袖井孝子、「大連のシルバー産業」、『週刊社会保障』No.2348,2005年9月 この時事評論では、大連での現地調査結果に基づいて、大連のシルバー産業の試みについて論じた。かつて国営企業、官庁、大学などの「単位」は福祉サービスを提供したが、市場経済への転換に伴い、福祉サービスは「社区」や民間企業に任されるようになったため、企業のシルバー産業への進出が活発になっている。これは中国の高齢者福祉だけではなく、日本人の高齢者の老後生活に影響を及ぼす可能性があると指摘されている。 3、南裕子、「農村自治と存立構造と農村社会の変動」『特集中国社会構造の変容』、勉誠出版、2006年1月 この論文では90年代後半以降の農村における村の公的な組織による公共財の提供と、管理の機能低下の傾向に伴う現象に注目した。これはインフォーマルな制度が公共財の提供を目的とした地域の共同性を創出する現象である。この現象がある種の社会的な力を蓄えた地域社会の出現として捉えて論じられている。
|