日本において長い伝統を有し、また、欧文直訳体や翻訳語法にも大きな影響を与えている漢文訓読語法に焦点をあてることにより、江戸・明治期における翻訳語法の変遷と、現代日本語の形成過程を解明していくことがこの研究の目的である。 江戸時代の漢文訓読は、古来の訓読語法をうけつぎながらも、時代とともに変化し、特に後期になると、補読語の減少、音読重視など、簡略になる。また、儒学の系統によっても様々な特徴を有している。 一方、江戸時代の蘭学者、お呼び其の電燈を受け継いだ江戸・明治期の英学者も、オランダ語・英語を学習する際に、漢文訓読の手法を利用している。そのため、蘭学資料、英学資料の中にも、漢文訓読語法をそのまま取り入れた語法が多く見られ、それらが翻訳語法及び欧文直訳体に特徴的な語法として、現代語の語法に大きな影響を与えている。 また、明治期の知識人が漢文の素養を有していたことより、漢文訓読体は明治初期において、最もよく使われる文体の一つであった。その語法は、江戸時代の漢文訓読の流れをうけたものであり、特に一斎点(江戸時代においてもっとも簡略な訓読法)の影響をうけたものが多い。 そのため、本研究においては、江戸・明治期において刊行された漢文訓読資料・白話小説資料・蘭学資料・英学資料・明治期翻訳小説を調査し、データベースを作成するとともに、その語法の変遷を漢文訓読語法を中心に整理を行い、江戸から明治にかけての翻訳語法の変遷と、近代日本語の形成過程を解明していく見通しが得られた。
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