裁判員制度のもとでは、従来よりも迅速でわかりやすい公判審理、裁判員が実質的・主体的に参加できる評議が求められる。迅速でわかりやすい公判審理を実現するためには、(1)証明対象の十分な絞込みとそれを前提とした十分な争点整理、(2)証人尋問を中心とした争点にポイントを絞った証拠調べが求められる。(1)の点では、刑事裁判本来の目的に即し、証明対象を骨太に、公訴事実とその立証に必要な重要な間接事実、重要な量刑事実に絞り込む必要があり、それが、当事者間でかみ合った十分な争点整理が可能であるための必須の前提ともなる。(2)の点では、人証による立証の裏側として、書面利用の限界が問題となり、とりわけ、争いのない事実の立証方法としての同意書面や合意書面の利用可能性、証人尋問の結果が調書と異なった場合の検察官面前調書の利用可能性(特にこの点では、証人尋問による弾劾だけでは足りず、真に検察官面前調書が必要となるのは具体的にどのような場合かを、実際的に反省する必要がある)が、書面を用いる場合にわかりやすさを損なわないための具体的方策とともに、重要な検討課題となる。 本年度は、上記の諸点について、問題点を明確化し、文献研究とともに、法曹三者による模擬裁判の参観、所属研究機関における模擬裁判(法曹三者の協力を得た)の実施とその解析のための映像記録の作成、実務家による研究会への参加と意見交換を行った。 成果の一部を踏まえ、研究発表欄記載のシンポジウム記録の取りまとめを行ったほか、司法研修所における第58期司法修習生を対象とした「日本の刑事司法と裁判員制度」と題する特別講義を行った。
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