迅速でわかりやすい公判審理が求められる裁判員制度のもとでは、証明対象の絞り込みと証拠の厳選が不可欠であり、判断主体が職業裁判官であることを当然の前提として組み立てられてきた従来の公判審理及び証拠の許容性に関する法規制のあり方には、見直しが迫られる点も少なくない。このような問題意識に基づき、従来の証拠法の理論・運用において判断主体の問題と不可分の部分はどこかに留意しつつ、その理論構造を再検討する作業を進めるとともに、より具体的に、伝聞法則との関係において、(1)争いのない事実の立証方法としての同意書面・合意書面の利用可能性、(2)証人尋問の結果が調書と異なった場合の検察官面前調書の利用可能性、(3)書面を用いる場合にわかりやすさを確保するための手続的方策の諸点((1)(3)との関係では、特に鑑定書や検証〔実況見分〕調書の取扱い)、自白の証拠能力との関係において、(1)判断基準(任意性と違法収集証拠排除法則との関係の理論的整理)と(2)立証方法((1)(2)に横断する問題として、手続的正義の観点からの証拠の許容性という判断枠組みの理論的再検討を含む)、にそれぞれ焦点を当てて、理論の側面と運用の側面の双方から検討を進めた。 また、証拠の厳選のあり方については、公判前の争点整理、公判における立証制限、控訴審における新たな証拠調べのあり方が不可分一体のものとして関係することに留意し、特に職業裁判官のみで構成される控訴審における新たな証拠調べ請求や職権証拠調べのあり方に焦点を当てて、理論的再検討を行った。この点では、事後審制の意義の解明が鍵的重要性を持つ。
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