本研究の目的は、現代社会状況の中の兄弟関係を、歴史的パースペクティブをもつ巨視的な視点から位置づけることである。本研究の発想の原点には、東南アジアと日本の「きょうだい関係」の比較があり、ここではきょうだい関係のうち、対立が顕在化しやすい男同士の関係である兄弟関係に対象を絞っている。 平成17年度に引き続いて、18年度においては、日本における兄弟の対立関係を歴史的な記録の中から抽出する作業を続行した。当初は江戸時代藩主の継承等において現れた係争の事例を収集しこれらの分析を行うという計画であったが、平成17年度中に、当初研究計画において副次的な位置づけを与えていた江戸時代以前における状況の重要さが認識されてきたので、これらの時代に関しても同様な観察を行う方向で若干の軌道修正を行って作業を行った。このために、地域的には、鎌倉期以降の領主が継続的に支配者としての地位を保つことが多かった東日本および西日本の藩主(あるいは領主)の系譜の収集に主力を注ぎ、今後の分析方向に見通しを得るべく、各代の継承ごとに紛争の有無をチェックし、紛争発生頻度の量的な把握を行うためのデータベースの作成を行った。継承における紛争に関しては、兄弟間に加えて、父子間、および一族間に発生した紛争をも対象とし比較の視点を拡大することにした。 江戸時代の藩主においては、継承にあたって上位者としての将軍ないし幕府の存在が調整者、監督者、許認可権保有者としての機能を果たし、長子相続制度の確立とあいまって、抗争が表面化する機会が抑制されたのに対して、先行する時代においては長子相続の未確立と中央権力の未確立が紛争を多発させたと考えられる。このような状況が東南アジアの事例との共通項を形成するという見通しの下に、マレー半島を中心とする支配者の継承にともなう紛争についてデータ収集を進め、日本の場合と同様の基準に従ってデータベースの作成を計った。
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