リー群のユニタリ表現論において基本的な手法の一つである「軌道の方法」に基づき、フランス・メッス大学のJean LUDWIG教授およびチュニジア・スファックス大学のAli BAKLOUTI教授と、指数型可解リー群のユニタリ表現に関連する共同研究を続行した。5月にはLudwig教授を飯塚の産業理工学部に短期招聘し、また9月初旬に彼の還暦祝いに、Baklouti氏と共に、メッス大学で開催された研究集会に招待された機会を利用し共同研究を続けた。得られた主要な結果は次の2つである。 1.指数型可解リー群の既約ユニタリ表現を軌道の方法により実現するとき、その同値類は途中で利用する偏極環の選び方に依らない。そこで2つの偏極環を選び2通りに実現するとき、その間の繋絡作用素を具体的に記述することは筆者長年の懸案であった。形式的な繋絡作用素に現れる積分の収束性を示し、この問題を解決した。 2.連結・単連結な冪零リー群の既約ユニタリ表現を連結閉部分群に制限するとき、フロベニウスの相互律の一種が成立する。すなわちこの制限されたユニタリ表現の既約分解における重複度はある種の半不変超関数の空間の次元に他ならない。 これらの結果は論文にまとめ、数学専門雑誌あるいは国際会議のプロシーディングに現在投稿中である。その他の実績としては、連結・単連結な冪零リー群の既約ユニタリ表現の連結閉部分群への制限が有限重複度をもつことと、随伴する不変微分作用素環が可換であることが同値であることを以前示したが、このときこの作用素環は、出発した既約ユニタリ表現に対応する余随伴軌道上の多項式関数であって問題の部分群の作用により不変なもののなす多元環に同型であろうという「多項式予想」を、例えば冪零リー群が3-ステップであるなど、特別な状況において証明した。
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