研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、それ自身,低次元系の電子相関効果の典型例として基礎物理学的観点から注目されているが,空洞構造(SWNT内やバンドル内のSWNT間)を利用したSWNTインターカレーション化合物(C_<60>やC_<70>フラーレンなどの内包)も,材料科学の対象としても注目されている。本研究では、SWNTとフラーレンピーポッド(C_<60>やC_<70>フラーレンを内包したSWNT)の特異な電子状態を、超高分解能分光実験やNMR実験によって明らかにして、新規ナノ構造体の物質設計に役立てようとするものである。17年度は、正逆光電子分光によって,C_<60>フラーレンピーポッドの電子構造の測定、(2)朝永-ラッティンジャー液体状態の精密測定を行った。 C_<60>ピーポッドの正逆光電子分光:C_<60>ピーポッドとSWNTの光電子分光を,高エネルギー加速器研究機構のフォトン・ファクトリー(課題番号2004G199)で行い、逆光電子分光測定を首都大学の現有逆光電子分光装置で行った。ピーポッドのスペクトルからナノチューブのスペクトルを差し引くことで,内包されたC_<60>の電子構造を明らかにした。その結果,内包されたC_<60>の電子構造は,今までの理論予想とは異なり,C_<60>固体のそれとかなり似ており,カーボンナノチューブーC_<60>間相互作用は弱いことがわかった。(Phys.Rev.B73,075406(2006)に論文発表) 超高分解能光電子分光:20Kの低温で超高分解能(エネルギー分解能4meV)による精密測定を、広島大学HiSOR(課題番号04A8)で行った。朝永-ラッティンジャー液体(TLL)状態に関して、冪的異常が現われるエネルギー範囲は,フェルミ準位から100meVの範囲にとどまることや,TLL的性質はC_<60>ピーポッドでもSWNTでも変わらないことがわかった。
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