研究概要 |
車軸藻ミオシンは,現在知られている中で最大の運動速度をもつ生体分子モーター蛋白質である。その運動速度は,他のミオシンと比較しても10倍〜1000倍速い。この速さを生み出している分子基盤を解明するために,蛋白質発現系によって得られた車軸藻ミオシンを用いてストッブドフロー装置によるキネティクス(速度論的解析)を行った。ミオシンによるアクチンの運動速度はd/t_s(dは1回のATP加水分解あたりアクチン繊維を動かす変位,t_sはアクチンとの強い結合時間)で近似されるので,最速の車軸藻ミオシンはdが大きいか,t_sが小さいか,それとも両方かのどちらかである。t_sは(アクトミオシンADP状態の時間)と(アクトミオシン状態の時間)から成り立っている)。(アクトミオシンADP状態の時間)はアクトミオシンからのADP解離速度を測定することにより,また,(アクトミオシン状態の時間)は生理的濃度のATPによるアクトミオシンの解離速度を測定することにより決定した。アクトミオシンからのADP解離速度は>2,800s^<-1>,生理的濃度のATPによるアクトミオシンの解離速度は2,200s^<-1>だった。これらのデーターより,(アクトミオシンADP状態の時間は<0.30ms(1/2,800s^<-1>),(アクトミオシン状態の時間)は0.40ms(1/2,200s^<-1>)となる。その結果,車軸藻ミオシンのt_s(アクチンとの強い結合時間)は<0.82ms(<0.36ms+0.46ms)ということがわかり,これはこれまで知られていた中でもっとも短い時間だった。また光ピンセットを用いての単分子計測はまだ確定された値にはおちついてはないが,dは他のミオシンと大きく違わないということがわかった。これらのことから,車軸藻ミオシンの極めて大きい運動速度はt_sを短くすることによって引き起こされていることがわかった。
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