研究概要 |
本研究の目的は、in vivo胎仔脳で、低酸素によるカスパーゼー3の活性がアポトーシス制御系のどの因子によって影響されているかを見出すことによって、低酸素に対する胎仔脳の保護機構を解明することである。本年度は、1)臍帯結紮による低酸素負荷に対して、ラット胎仔上丘にアポトーシスが発現するか否かをssDNA抗体法により調べた。さらに2)低酸素負荷において、活性酸素(ROS)、ミトコンドリアの膜に存在するアポトーシス抑制因子(Bcl-2)と促進因子(Bax)のカスパーゼ活性に対する働きを、光学的イメージング法を用いて検討した。 臍帯結紮後の再還流から1,2,3,5時間目においてアポトーシスが有意に発現した。臍帯結紮によって、カスパーゼー3活性は一過性に上昇した。臍帯の再還流後カスパーゼー3活性はさらに大きく上昇し、緩やかに回復した。このカスパーゼ^3活性上昇反応はCu, Zn superoxide dismutase (ROS分解酵素)の前投与によって影響されなかった。低濃度のBcl-2阻害剤はカスパーゼー3活性上昇反応を抑制しなかった。しかし、高濃度のBcl-2阻害剤はこの反応を有意に抑制した。Bax阻害剤はカスパーゼー3活性上昇反応に影響しなかった。これらの結果から、胎仔脳においては、低酸素による活性酸素の産生は少なく、カスパーゼー3活性に影響を与えていないことが考えられる。.さらにBaxとBcl-2は胎仔脳においては機能していないことが示唆された。胎仔脳においては低酸素に対してカスパーゼー3活性が上昇しすぎないようなメカニズムが働いているのかもしれない。また高濃度のBcl-2阻害剤の抑制効果については、この阻害剤のBcl-2への直接作用によることが考えられる。今後、Bcl-2とBaxのsiRNAを用いて、胎仔脳の神経保護機構を詳細に検討する予定である。
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