第1年度においては、当該研究課題ジョゼフ・バトラー関連の資料収集をするともに、18世紀と19世紀のイングランド自然神学のイデオロギー状況を架橋する功利主義者ジェレミー・ベンサムによる啓示宗教としての英国国教会を念頭においたキリスト教批判、宗教そのものの批判を企図した自然宗教・自然神学批判の再検討を行った。これは、本科学研究費による研究の第2年度に、18世紀英国国教会の自然神学思想の中軸であったバトラーに遡及するための準備であった。 内容的には、イングランドの商業社会化が進展していく過程で、自然的欲求にもとづいて営利を目指す個々の経済主体の営為と、伝統的なキリスト教モラルとがどのように体制としての英国国教会の神学思想の中で調停されたのか、されなかったのかが考察のポイントとなることが明らかとなった。英語圏や日本を問わず、従来の研究では18世紀スコットランド啓蒙の影響に隠れて、経済的自由主義に彩られる19世紀中盤以前のイングランドのイデオロギー状況の検討に大きな空隙が存在しており、それを埋める端緒として2年度目以降の本研究の展開方向を定めることができた。 具体的成果としては、本科学研究費申請時に示していた2005年度国際功利主義学会ダートマス大会(アメリカ・ダートマス大学、2005年8月11-14日)において「Bentham on Hume : Two Critiques of Religion」を報告した。また、「18-19世紀ブリテンにおける社会科学の生成と自然神学」と題する報告(2006年第1回小泉記念研究会、慶應義塾大学、2006年3月19日)を行うとともに、19世紀初頭から中葉までのキリスト教経済学を中心としたブリテン社会科学とペイリー自然神学に関する日本語論文1本と、本研究課題に係わるベンサムとマルクスに関する英語論文2本を発表した(次項参照)。
|