本研究は、視覚的注意が運動視の情報処理に影響を与える時のメカニズムを視覚誘導性眼球運動を調べることで明らかにしようとするものである。脳が行う視覚刺激の動きの計算には、刺激輝度の時空間スペクトラムから動きを計算する一次運動検出機構と、それでは抽出できない動きを計算する二次運動検出機構がある。本年度では、一次運動、二次運動検出機構で検出される動視覚刺激を被験者が見ている時に起こる眼球運動を調べるための行動実験課題を作成し、それを用いて眼球運動の記録を行った。提示する視覚刺激はコンピュータを用いて作成し、それを眼前に置いたCRTディスプレイ上に呈示した。その刺激を被験者が見ている時の眼球運動を電磁誘導式眼位計測装置かプルキンエ像を利用した眼位計測装置を用いて計測した。本年度ではまず、一次運動と二次運動によってどのような眼球運動が起こるかを調べるために、広い視野の動きで起こるサルの追従眼球運動と小さい視角領域の動きで起こるヒトの追跡眼球運動について調べた。その結果、追従眼球運動は主として一次運動の動きによって起こることがわかった。この成果の一部は11月に行われた北米神経科学会で報告し、また学術雑誌(Vision Research)に掲載された。追跡眼球運動は一次運動刺激に属する視覚刺激でも、二次運動刺激に属する視覚刺激でも起こることがわかった。追跡眼球運動課題についてさらに詳細に検討し、視覚的注意の効果を調べることができるように実験課題の改善を行い、確立した課題を用いて4人の被験者から眼球運動を記録した。その結果、被験者の視覚的注意が一次運動検出機構と二次運動検出機構の両方の検出機構に影響を及ぼすことを強く示唆するデータを得た。この結果は次年度7月に京都で開催される日本神経科学学会(京都、7月)での報告を予定している。
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