本研究の対象となる、寄進され再利用された染織品について、現在も社寺に伝来している作品、宗教的空間を離れ博物館などの公共機関あるいは個人の所蔵となっている作品の所在確認を進めた。その中で、打敷の収集を積極的に進めている国立歴史民族博物館と京都の諸寺院において実見調査を実施し、形状・文様構成・染織技法・銘文・伝来などの必要項目を共通様式の調書に記入し、50件の調書を作成した。寺院の場合、所蔵打敷の全点調査となるが、その作業を通して、各寺院を支えてきた寄進者層の概要が浮かびあがり、打敷が諸寺院の性格をも語ることを再認識した。また、調査作品のうち特に注目されるものについては、歪みのない写真を撮影して画像をデジタル化し、画像処理ソフトを利用して、再利用される前の衣服の復元を試みた。調書および分析結果は、現在コンピューターに入力中である。 さらに本年度は、オランダ・ハーグで開催されたICOMCC(国際博物館会議保存国際委員会)染織総会「宗教染織」シンポジウムに参加し、奈良・円照寺所蔵打敷の修理保存と修理による研究成果を、大谷大学のモニカ・ベーテ氏とポスター発表した。このシンポジウムでは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、日本以外での仏教に関する染織の状況についても発表がなされ、キリスト教においても、教会へ衣服を寄進し、堂内装飾に用いる例があることを確認した。
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