本研究の対象となる、寄進され再利用された染織品について、現在も社寺に伝来している作品、宗教的空間を離れ博物館などの公共機関あるいは個人の所蔵となっている作品の両方について所在確認を進めた。 そのうち、京都の社寺に伝えられている作品および、滋賀県と愛知県の社寺に伝えられている桃山時代の年記を有する打敷について実見調査を実施し、形状・文様構成・染織技法・銘文・伝来などの必要項目を共通様式の調書に記入し、27件の調書を作成した。また、調査作品のうち特に注目される作例については、歪みのない写真を撮影して画像をデジタル化し、画像処理ソフトを利用して、再利用される前の衣服の復元を試みた。調書および分析結果については、データベース化すべく、現在コンピューターを用いて整理中である。 さらに本年度は、韓国・修徳寺美術館と刺繍博物館で開催された、韓国仏教染織をテーマとする展覧会を観覧し、展示企画担当研究員と韓国における衣服の再利用について討議を行った。その結果、韓国では物故者の衣服を焼却する習慣があり、衣服を寄進することはおろか、世俗の衣服はほとんど残されないことが判明した。衣服の寄進と再利用という行為が日本の仏教において深く根付いている理由について、民俗学的な視点からも考えていくという、新たな課題を得た。
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