18世紀末から19世紀前半のドイツ刑事法学における歴史的・哲学的な基礎研究が、同時代の法解釈論や実務といかなる影響関係にあったのかを解明することが、本研究計画の目的である。そのための資料収集が今年度の主要な課題であった。2005年8・9月および2006年2・3月のゲッティンゲン大学での調査により、未復刻の貴重な史料の収集が進み、その課題は着実に達成されている。 それらの史料をもとに、上述の「哲学的な基礎研究」のうち、中でも当時の「犯罪心理学」の実情を具体的に解明することができた。「犯罪心理学」は、同時代の刑法理論との関連では帰責論と密接に関連しており、実務においては、行為者の「意思の自由」にかかわる判断(犯罪実行時における行為者の意思の自由の有無とその程度。特に心神喪失・心神耗弱にかかわる減軽事由への該当性の判断)を行うための手だてを提供するものとして重要な役割を期待されている、ということを史料に即して理解することができた。また、行為者の「意思の自由」をめぐる判断が、当時の刑事裁判において深刻となっていたいわゆる「裁判官の恣意」の問題と密接な関連にあることも、明らかになった。裁判官の個別具体的な認定によらざるを得ない「意思の自由」にかかわる判断が、裁判官の恣意的な裁量(残存する伝統的な法源による過酷な処罰を無視した、違法な減軽)の温床になっているという批判が行われているのである。その一方、「意思の自由」にかかわる判断に適切な基準を与え、不当に重い処罰を緩和し、刑法の人道化に寄与しうるものとして、当時成立したばかりの学問である「犯罪心理学」に、多大な期待が寄せられていることも明らかになっている(これらの問題については、法制史学会近畿部会において2005年9月に報告を実施)。 次年度はさらに調査範囲を広げつつ、当初の計画通り具体的な成果発表につなげていく。
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