研究概要 |
本研究課題の中心である遺伝的分析に必要な汽水性魚類を採集するため三重県,和歌山県,岡山県,奄美大島,沖縄島で採集を行った.実験設備については8月にほぼ完成させることができたので,本州に分布するコイ科のゼゼラをテストケースとしてミトコンドリアDNA(mtDNA)全塩基配列の決定をおこなった.コイ科のmtDNAの全塩基配列決定は容易におこなえることと,本州の淡水魚の分布変遷の歴史は化石などの証拠によって比較的良く理解されていることから,ゼゼラの二地域の集団のmtDNA全塩基配列の比較によって日本-琉球列島間でのmtDNAの分岐年代の参考数値を得ることが出来た.また,日本-琉球列島の汽水魚のmtDNA全塩基配列比較については,既存の報告と部分塩基配列に基づく遺伝的分析の結果から14種のハゼ亜目魚類を選定しミトコンドリアDNA(mtDNA)全塩基配列の決定作業を開始した. ミトコンドリアDNAの部分塩基配列に基づく日本-琉球列島における島嶼間での汽水性ハゼの分布拡大能力についての解析も同時に進めており,トビハゼについて種子島や沖縄島の集団が本州から九州の集団と分化していることを明らかにした.その成果は第41回魚類自然史研究会において報告した.また,ゴマハゼ類の島嶼間での遺伝的分化の解析をおこなう際に隠蔽種が含まれていることが明らかになったので,日本産ゴマハゼ類の分類学的整理をおこない新和名を提唱した論文の公表をおこなった.この作業によって,今後のゴマハゼ類の生態調査の基礎を固めることができた. 各魚種の野外での生態調査については,食性や生殖腺の発達を観察するための標本を採集し,組織切片作成用の標本を確保した.また,琉球列島のナガノゴリについては産卵巣の河川内分布についても観察をおこなった.
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