研究概要 |
日本列島から琉球列島における汽水性魚類の遺伝的分化と集団構造の解明のために,チチブ属・アベハゼ属・ヨシノボリ属・ゴマハゼ属から選定した12種のmtDNA全塩基配列決定を試みた.mtDNA全体を増幅するロングPCRは全種で成功したものの,ハゼ亜目魚類はmtDNAの塩基配列の分化が著しく,塩基配列全体を決定できたのは1種,残りは部分的に未決定の領域を残したものの,複数の遺伝子領域における遺伝的分化から分岐年代を推定するためのデータを得ることができた.これらの魚種については,日本列島から琉球列島の間で明確に分化していることが知られているが,分岐年代は約400万年まで遡るものと200万年程度のものに分けられた. 汽水魚の島嶼間の移住能力に関しては,ナガノゴリ・アベハゼ・トビハゼ・マサゴハゼ・タネハゼの5種について解析した.ナガノゴリとアベハゼは遺伝的に分化した日本列島集団と琉球列島集団が南九州の種子島などで雑種化していることが明らかになり,より詳細な歴史解明と生殖隔離の形成についての解明が今後の課題となった.トビハゼ・マサゴハゼは分布域内での遺伝的分化が小さいものの,島嶼間の移住が制限されていることが明らかになった。タネハゼは沖縄島から本州の間では遺伝的分化が見られないものの,八重山諸島と沖縄諸島の間で遺伝的に分化していることが明らかになり,琉球列島内での地史に対応したさまざまな汽水魚の地理的分化が生じていることが明らかになった.また,地域間での遺伝的分化の大小に関わらず,汽水魚は島嶼間での移住が少ないことが示された. 野外調査については,日本列島と琉球列島の間で遺伝的に大きく分化したゴマハゼ類,中程度に分化したアベハゼ,遺伝的分化が少ないマサゴハゼについて,周年採集による生殖周期の調査や,微小生息場所の季節変化を調査し,両地域での生態的分化についての示唆を得た.
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