血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は血管新生の主要因子であるとともに、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)と同様に、破骨細胞の分化誘導を促進し、骨のリモデリングに関与することが示されている。両因子は骨芽細胞を主体とする間葉系細胞が何らかの刺激に応答した結果、その産生を制御していることが推察される。本研究の目的は、骨芽細胞様細胞MC3T3-E1細胞の両因子発現に対する機械的伸展刺激の影響と、機械的刺激を受容するS-Aチャネルの阻害がその発現に与える影響を解明することにある。 実験には、Flexercell Strain Unitを用いてMC3T3-E1細胞に周期的伸展刺激を加え、定量PCR法とELISA法を用いてVEGFおよびM-CSFの発現量を定量した。また、ガドリニウムによりS-Aチャネルを阻害した場合とニフェジピンにより電位依存性Caイオンチャネルを阻害した場合について両因子の発現量を同様の手法により検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。 1.MC3T3-E1細胞に様々な伸展力を与えた結果、10kPaの場合に両因子のmRNA発現量は対照群と比較して有意に増加した。また、その発現量は、VEGFでは3時間以降、M-CSFでは12時間以降に有意に増加した。 2.両因子の蛋白発現量については、いずれも時間依存性に増加する傾向を示した。 3.ガドリニウムの添加により両因子mRNAならびに蛋白の発現量は対照群と比較して有意に抑制されたが、ニフェジピン添加による変化は認められなかった。 以上の結果から、骨芽細胞様細胞は至適な伸展力下において、S-Aチャネルによりその機械的刺激を細胞内に伝達し、時間依存性にVEGFとM-CSFの発現を促進させることが明らかとなった。このことから、矯正力のような機械的刺激が骨芽細胞による両因子の発現に大きな影響を及ぼす可能性が示唆された。
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