本研究ではラブラドール・レトリバーに発症する銅関連性肝炎の遺伝子頻度を調査し、遺伝子診断方法の確立を目的とした。銅関連性肝炎の原因遺伝子は常染色体に位置するATP7BおよびX染色体に位置するATP7Aの点変異によって発症する。ATP7Bの変異(c.4358G>A)は制限酵素SacII部位を導入するため、変異の検出にPCR-制限酵素断片多型(RFLP)を用いた。ATP7Aの変異(c.980C>T)は制限部位を導入しないため、変異領域に制限酵素Smll部位を人為的に導入しdCAPS法により変異を検出した。 ATP7B変異(c.4358G>A) ATP7B変異の検出にはSacIIによるRFLPを用いたが、変異領域がGCリッチであり、制限酵素消化によるジェノタイピングが安定しなかった。したがってATP7B変異はPCR産物のDNA配列分析で検出した。 100頭のラブラドール・レトリーバーをジェノタイピングしたところ、G/Gが84頭、G/Aが15頭、A/Aが1頭であった。GおよびAの遺伝子頻度は、それぞれ0.915および0.085と算出された。これらの結果から、ヘテロ接合(G/A)の頻度は、0.15(15.0%)、潜性ホモ(A/A)の頻度は0.0073(0.73%)と算出された。 ATP7A変異(c.980C>T) Smll部位を人為的に導入したdCAPS法により検出した変異を、DNA配列分析にて確認したところ、両者の結果は一致していた。ATP7A変異はdCAPS法で正確に検出されていることを確認した。 100頭のラブラドール・レトリーバーをジェノタイピングしたところ、オスではTが19頭、Cが29頭であり、TおよびCの遺伝子頻度はそれぞれ0.198および0.302と算出された。メスでは、C/Cが27頭、C/Tが22頭、T/Tは3頭であった。メスにおけるCとTの遺伝子頻度は0.731および0.269と算出された。 銅関連性肝炎の発症犬の予測 ATP7Bの潜性ホモ、およびATP7Aのオスにおけるヘミ接合体C/Y、メスにおける潜性ホモ(C/C)とヘテロ接合体(C/T)の遺伝子型頻度から、ラブラドール・レトリーバーの銅関連性肝炎の発症率はオスで0.53%、メスで0.65%と算出された。
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