研究課題
日本薬物文化の意義を明確にするため、近世医療文化財(薬箱他)の普遍的価値の実証と恒久保存に向けた多角的解析法の確立が必須である。大阪大学所蔵の緒方洪庵が晩年期に使用した薬箱には製剤化された薬物がガラス瓶や木筒に入ったまま遺されていたが、約半数が開栓不能で内容薬同定が困難であった。恒久的保存方法の検討には、内容物と容器双方の物性把握が必須である。最終年度の平成31~令和元年度では、①製剤化された一文字表記「莫」のガラス瓶の蛍光X線分析の結果、Si、Pb、Kが顕著に検出され、鉛カリガラスであることを明確にした。関連文書の網羅的探索から「阿芙蓉莫爾比涅(モルピ子)」の記述を発見すると共に、薬瓶開口部周辺を清拭した廃棄綿棒を用いた飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)の結果、モルヒネ、コデイン等が検出され、内容物を消費することなく科学的に本草考証を裏付けた。②新規非破壊分析法として人工ミュオンビームに着目し、高エネルギー加速器研究機構大強度陽子加速器施設(: J-PARC 茨城県東海村)にて検討した。大阪大学所蔵の「昇汞錠」標本瓶を用いた基礎検討を通して人工ミュオンビームを初めて医療文化財分析に適用し、同一測定法で外部の容器と内部の薬物双方の元素組成分析に成功した。本成果を得て、蓋上部に「甘」と書かれた内容物不明かつ開栓不能の洪庵晩年期使用ガラス薬瓶で実施した。薬瓶には白色の粉末が残存する。洪庵関連文書の悉皆調査から「甘」内容物は甘汞即ち塩化水銀(I) Hg2Cl2であると推測し、容器は蛍光X線解析によりカリ鉛ガラスであることを実証した。更に、ミュオンにより瓶内部の元素分析を行った結果、容器由来のSi、Pbのピーク他にHg、Clのピークを認め、文献検証の結果と合致し、文化財の新規非破壊分析法としての人工ミュオンビームの有用性を明確にした。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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