研究課題
パルスレーザー堆積法や反応性固相エピタキシャル成長法を駆使してナノ周期平行平板構造薄膜を作製し、その物質、組成、角度と熱伝導率の関係をTDTR法によって精密に計測することで、「ナノ周期平行平板構造が熱伝導率に及ぼす影響を実験的に解明する」ことを目標している。2019年度は、傾斜して超格子が成長したInGaO3(ZnO)m単結晶薄膜の熱伝導率実測値から、層に平行方向の熱伝導率を見積もった。その結果、層に平行方向の熱伝導率は多結晶程度に大きいことが明らかになった。セラミックス内の熱伝播は粒界によって妨げられるので、一般に焼結体の熱伝導率は単結晶よりも低いが、本研究では、この常識を覆す「単結晶なのに焼結体よりも熱伝導率が低い」現象を見出した。超格子に直交方向ではナノ周期平行平板構造により熱伝播ができないためである。さらに詳細に明らかにするため、2020年度は米国MITの研究グループと共同で超格子に平行方向の熱伝導率を直接計測することにしている。また、層状構造を有するコバルト酸化物AxCoO2の層に垂直方向と平行方向の熱伝導率を計測し、層間イオンの原子量の増加に伴い、熱伝導率の異方性が減少することを論文にまとめてAdv. Mater. Interfaces誌で発表した。さらに、Aイオンを重い金属イオンに交換することで熱電変換性能指数ZTが室温で0.2を超えるデータが得られた。現在は、再現性も含め、熱電特性の温度依存性を調査している。また、ナノ周期平行平板構造以外のナノ構造の導入がエピタキシャル薄膜の熱伝導率に及ぼす影響を調べ、現在論文投稿中である。さらに、この現象を利用した、熱抵抗を変化させられる熱トランジスタの開発も始めたところである。論文、招待講演などの実績(数)は、原著論文:16報、招待講演:8件、著書:3件、特許出願:1件、新聞報道等:4件、学生等の受賞:9件、などである。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は、計画通り超格子構造が傾斜したInGaO3(ZnO)m薄膜を作製し、その熱伝導率計測を行った。熱伝導率の実測値から見積もられた層に平行方向の熱伝導率は、焼結体の熱伝導率程度に大きいことが明らかになった。2018年度末に明らかにした層状コバルト酸化物の熱伝導率のAイオン重量依存性の研究は論文にまとめて発表した(Adv. Mater. Interfaces)。Aイオンを変えたときに、酸化物としてはトップデータとなる室温でZT=0.2を超える高い熱電性能指数が得られたことは特筆すべき成果である。以上より、2019年度の進捗状況は順調であり、ほとんどは当初計画を超えていると自己評価した。
2017年度から2019年度までの3年間で当初計画していた研究内容についてはほぼ完遂し、現在はその成果を論文にまとめて発表する段階である。米国MITとの共同研究による、層に平行方向の熱伝導率を直接計測することはかなり挑戦的なテーマだが、傾斜した超格子から見積もった層に平行方向の熱伝導率を検証するために重要と考えている。また、ナノ周期平行平板の研究により熱電材料の高ZT化の指針が得られたので、酸化物を使った真に高ZTの材料を設計・創製する。さらに、熱を自在に操るための熱のトランジスタを創製するための熱伝導率計測は継続して行う。本プロジェクトは2020年度が最終年度であるため、次の研究プロジェクトで、高ZT酸化物熱電変換についてはバルク化を、熱トランジスタについてはデバイス化を行うことを見据えた研究を推進する。
2019年11月8日 北海道大学からプレスリリース「情報記憶素子の仕組みをのぞきみた!~次世代情報記憶素子の開発を加速~」
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 6件、 査読あり 16件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (77件) (うち国際学会 44件、 招待講演 8件) 図書 (3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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http://functfilm.es.hokudai.ac.jp/