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2018 年度 実績報告書

オセアニア環礁社会を支えるタロイモ栽培の天水田景観と気象災害のジオアーケオロジー

研究課題

研究課題/領域番号 17H01647
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

山口 徹  慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (90306887)

研究分担者 山野 博哉  国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 研究センター長 (60332243)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2022-03-31
キーワード考古学 / ジオアーケオロジー / 景観史 / 環礁州島 / オセアニア / プカプカ環礁 / 天水田
研究実績の概要

本研究の目的は、オセアニアの環礁社会を支える天水田の構築・放棄・修復・再利用にかかわる動態を気象災害との関連において解明することである。そのために、考古学と地球科学の手法を用いて、北部クック諸島プカプカ環礁で現地調査を継続している。
プカプカは3つの州島からなる環礁で、北角の州島ワレが主要な居住空間となっている。州島ワレの内奥には、低い畔で仕切られたタロイモ耕地が連なる。こうした耕地は、外洋側ストームリッジやラグーン側浜堤の内側の低湿地が整備された大型天水田である。このタイプの天水田とは別に、すり鉢状に掘削された小型天水田が点在する。2018年8月調査では、小型天水田の周りを取り囲む廃土堤のトレンチ発掘を実施し、廃土の中に暗色の砂礫層を複数枚確認し、年代測定用の炭化材を採取できた。年代測定の結果、小型天水田の掘削がおよそ600年前に始まり、比較的短期間で廃土が積み上げられたことが明らかとなった。少なくとも、現在みる小型天水田の景観が500-600年間大きく変わっていないことになる。
これは、1995年に実施した大型天水田の廃土堤発掘の所見とは異なる結果であった。そこでは、天水田の掘削・廃土の積上げが600年前以降に複数回行われてきていた。差異の要因の1つとしてサイクロン被害を想定している。植付け面積が広い大型天水田は平常時には効率が良いが、低湿地を転用した耕地であるためサイクロン時に高潮・高波が侵入しやすい。塩害を受けると土壌の除去や再掘削が必要だった可能性がある。これに対して小型天水田は掘削土量や労働投下に比して得られる耕地面積は小さいが、もともと海抜3mほどの砂堤に個々に分離して掘り込まれており、周囲は5m前後の廃土堤で囲われている。サイクロンの高波・高潮が浸入しづらく、また塩水飛沫に対しても耐性をもつ。気象災害に対するレジリエンスとして効果的な景観要素と評価できる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

初年度(2017)のプカプカ環礁調査では、面積140haの州島ワレに大小合わせて80基/区画以上、総面積8.5haにもなる天水田群を確認し、周囲に積上げられた廃土の堤が縦横に伸びる景観をGPS測量と高精細衛星画像で記録したが、発掘調査にまでは至らなかった。しかし2年目の本年度(2018)には、現地アイランドカウンシル(島会)の承諾をえて、すり鉢状の小型天水田を取り囲む廃土堤発掘を実施できた。リモートオセアニアの環礁州島では波浪による堆積作用しかないため、過去の文化層は現在の人間活動によって撹乱を受けやすい。この状況のなかで、天水田の廃土堤は過去の生活面をパックしている数少ない発掘候補地である。1m×5mの発掘トレンチを最大深度3mまで掘り下げたところ、複数枚の旧地表面を確認できただけでなく、良好な年代測定試料を採取することにも成功し、これによって天水田掘削の歴史的プロセスが解明できた。
また、研究分担者とともにサンゴ礁原を巡検することによって、メガブロックを10個以上確認できた。サイクロンの波浪で礁斜面から剥がされ、礁原上に打ち上げられたサンゴブロックである。複数のメガブロックから採取した試料を、種同定後に年代測定する予定である。それによって、先史期のサイクロンの襲来時期を特定できる可能性が高い。
さらに小規模ユニット発掘も実施し、20地点近くで堆積物サンプルを採取した。堆積物の粒度分析や年代測定を進めており、環礁州島の地形形成プロセスについても2019年度内に明らかにする予定である。

今後の研究の推進方策

プカプカ環礁は西ポリネシアや東ミクロネシアと東ポリネシアのあいだに位置するため、先史期の移住史研究でも注目される島である。東ミクロネシアの環礁社会であるマーシャル諸島では初期居住期が2000cal.yBPに遡り、天水田耕地の掘削も1800cal.yBPには始まっていたことが分かっている。そこで、プカプカ環礁の州島ワレの地形形成史と、州島中央に分布する天水田掘削の開始期の所見をもとに、本年度(2019)8月の現地調査では、1000cal.yBPを超える初期居住期の文化層を州島東側に探索する予定である。
州島ワレの調査が順調に進めば、来年度(2020)以降は、プカプカ環礁を構成する残りの2州島について、地形形成や気象災害と人間活動の関係史の解明を目的としたジオアーケオロジー発掘調査を実施する。これらの情報を総合し、代表者・分担者が過去に実施した他の環礁との比較研究を進めるとともに、日本オセアニア学会、日本文化人類学会、日本サンゴ礁学会等で成果発表する。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Influence of Acidification on Carbonate Sediments of Majuro Atoll, Marshall Islands2018

    • 著者名/発表者名
      Ito, R., Yamaguchi, T., et al.
    • 雑誌名

      Chemistry Letters

      巻: 47(4) ページ: 566-569

    • DOI

      https://doi.org/10.1246/cl.171236

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Origin and migration of trace elements in the surface sediments of Majuro Atoll, Marshall Islands2018

    • 著者名/発表者名
      Ito, R., Omori, T., Yoneda, M., Yamaguchi, T., et al.
    • 雑誌名

      Chemosphere

      巻: 202 ページ: 65-75

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2018.03.083

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 島景観の歴史生態学-ラパ・ヌイと石垣島のジオ・アーケオロジー2018

    • 著者名/発表者名
      山口徹
    • 雑誌名

      史学

      巻: 88(1) ページ: 153-154

    • 査読あり
  • [学会発表] 北部クック諸島プカプカ環礁の天水田景観史2019

    • 著者名/発表者名
      山口徹
    • 学会等名
      日本オセアニア学会
  • [学会発表] 気象災害連鎖を生き抜くオセアニア環礁社会の戦略―アトール・レジリエンス解明に挑む2018

    • 著者名/発表者名
      深山直子、棚橋訓、山口徹、山野博哉
    • 学会等名
      海外学術調査フェスタ
  • [学会発表] 「島景観」の歴史生態学ーラパヌイと石垣島のジオアーケオロジー2018

    • 著者名/発表者名
      山口徹
    • 学会等名
      三田史学会
    • 招待講演
  • [学会発表] Fragile to climate change?: from the perspective of micro islands in a microsate2018

    • 著者名/発表者名
      Fukayama, N., Yamaguchi, T., Tanahashi, S., Yamano H.
    • 学会等名
      World Social Science Forum 2018
    • 国際学会
  • [図書] アイランドスケープ・ヒストリーズ:島景観が架橋する歴史生態学と歴史人類学2019

    • 著者名/発表者名
      山口徹(編)
    • 総ページ数
      362
    • 出版者
      風響社
    • ISBN
      978-4-89489-258-3
  • [備考] TORU's Colloquim

    • URL

      http://web.flet.keio.ac.jp/~toru38/ty_seminar/index.html

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公開日: 2019-12-27  

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