研究課題/領域番号 |
17H01712
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石原 亨 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (30323471)
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研究分担者 |
小野寺 秀俊 京都大学, 情報学研究科, 教授 (80160927)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロプロセッサ / 低消費電力・高エネルギー密度 / エネルギー効率化 |
研究実績の概要 |
過去に構築したプロセッサの最小エネルギー動作点追跡技術の理論を実証する最小エネルギー動作点追跡システムを構築した。過去に実施した研究において最小エネルギー動作点はプロセッサの動作温度、回路の活性化率、トランジスタの経年劣化度合、および、要求動作速度に依存することを明らかにしている。また、プロセッサの最小エネルギー動作点は、プロセッサの電源電圧、基板バイアス、活性化率、リーク電流、および温度から簡単な計算式を用いて正確に導出できることを明らかにしている。構築したシステムは、具体的にはプロセッサと同じチップに搭載したリーク電流センサ、4種類のパフォーマンスカウンタ、温度センサおよびクリティカルパス遅延モニタを用いて実時間で最小エネルギー動作点を導出する。上記4種類のパフォーマンスカウンタは、具体的には単位時間あたりの命令実行数、キャッシュアクセス数、命令メモリアクセス数、データメモリアクセス数を計測する。これらのパフォーマンスカウンタの値からプロセッサ全体の平均活性化率を実時間で導出するための線形回帰モデルを開発した。このモデルを使ってプロセッサ全体の平均活性化率を実時間で正確に予測できることを実証した。関連の成果は国内研究会1件と国際会議1件および論文誌2件で発表した。また、オープンソースのRISCプロセッサの設計記述を本課題の目的に合うように変更し新たなプロセッサチップとして試作した。このプロセッサチップにはより多くのパフォーマンスカウンタを搭載し、プロセッサの活性化率を正確に予測できるようにした。具体的には、LOAD命令とSTORE命令の実行回数、分岐した分岐命令と分岐しなかった分岐命令の実行回数など、17種類のカウンタを搭載した。バックアップ用乾電池と環境発電デバイスのミックス電源システムに関しては、利用可能と考えられる様々な環境発電デバイスを調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去に構築したプロセッサの最小エネルギー動作点追跡技術の理論を実証する最小エネルギー動作点追従プロセッサチップを試作し、最小エネルギー点での動作を実証した。最小エネルギー動作点におけるプロセッサの安定動作を実現するために、完全ディジタル型のオンチップメモリの設計手法を確立し、プロセッサチップに集積した。本課題の研究成果に基づき、3件の査読付き雑誌論文と7件の査読付き国際会議論文、および5件の国内研究会論文で発表を行った。また、本課題の研究成果により、下記の5件の賞を受賞した。 1)2017年8月 2016年度システムとLSIの設計技術研究会 優秀発表学生賞 (塩見 準) "広範囲な動作性能領域においてエネルギー最小点追跡を可能にするオンチップメモリ"、2)2017年8月 2016年度システムとLSIの設計技術研究会 最優秀発表学生賞 (塩見 準) "ロジック部およびメモリ部の独立電圧制御によるプロセッサの消費エネルギー最小化"、3)2017年8月 IEEE CEDA All Japan Joint Chapter Academic Research Award (塩見 準) "Individual Voltage Tuning for Logic and Memory Circuits in Energy-Efficient Processors" 4)2017年7月 情報処理学会 コンピュータサイエンス領域奨励賞 (塩見 準)"ロジック部およびメモリ部の独立電圧制御によるプロセッサの消費エネルギー最小化" 5)2017年5月 LSIとシステムのワークショップ最優秀ポスター賞(学生部門) (塩見 準) "IoT向け超省エネルギープロセッサのための完全ディジタル型メモリ"
上述の通り、本課題の成果により多数の論文発表と受賞を受けており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、商用の65nm CMOSプロセステクノロジを使用し、動的電圧制御(電源電圧とバックゲートバイアス)を可能とするプロセッサを試作する。プロセッサ設計にはオープンソースコアであるRISC-Vを使用する。29年度に試作した各種要素回路の評価結果をフィードバックし、各種センサを備えたプロセッサとして実現する。1.2Vから0.3Vまでのニアスレッショルド電圧(しきい値電圧近傍の電源電圧)およびサブスレッショルド電圧(しきい値電圧以下の電源電圧)での動作を実チップにより実証する。また、プロセッサの動作状況および発電システムの発電状況に応じて、1)最小エネルギー動作、2)最小電力動作、3)最低電圧動作、をソフトウェアから最適に制御するプロセッサの動的電圧制御メカニズムを構築する。事前に作成した線形近似モデルと温度センサおよび電流センサの値からプロセッサの最適な動作点(電源電圧としきい値電圧の組)を実行時に計算する機構を構築する。 過去に試作した環境発電技術を発展させ、太陽光だけでなく風力や体温あるいは振動などから効率良く電力を創りだす環境発電システムのアーキテクチャ開発の検討を開始する。具体的には、内蔵キャパシタを用いて、環境から取り入れた電力をバッテリや各種機器へ適切にスケジューリングする技術を検討する。さらに、過去に試作した環境発電システムを再設計し、ソフトウェアからの制御を容易にするメカニズムを構築する。これにより、乾電池と環境発電池のミックス電源でプロセッサを10年継続動作させるシステムの構築を狙う。さらには、発電装置、蓄電池、プロセッサシステムおよびアプリケーションプログラムの動作を総合的に考慮し、システム全体をOSから統合的に管理する電力管理技術を検討する。
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