研究課題/領域番号 |
17H01928
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
山本 充 小樽商科大学, 商学研究科, 教授 (30271737)
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研究分担者 |
吉田 謙太郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (30344097)
高橋 義文 九州大学, 農学研究院, 准教授 (60392578)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 心理的距離 / 解釈レベル理論 / 二段階モデル / 環境配慮行動 / 損失回避性 / 行動経済学 |
研究実績の概要 |
環境配慮行動の意思決定モデルの一つである広瀬(1994)の二段階モデルでは、目標意図の形成段階としての環境認知が環境リスク・責任帰属・対処有効性という3つの認知を規定因とし、これにより環境問題に対する態度を決定し、次いで行動意図の形成段階では行動の実行可能性・便益費用・社会規範二対する3つの評価を規定因としている。しかしながら、環境配慮の態度が目標意図として形成されても、実際の行動に必ずしも反映されないのは、態度と行動の意思決定段階が異なり、行動段階で一種の選好の逆転が生じることが原因と考えられる。そこで、この二段階モデルと意思決定時の心理的距離による解釈レベルを把握することで、心理的距離の違いが態度と行動の乖離を説明する一つの方法となる。そこで、環境配慮行動として環境配慮米の購買行動を対象に二段階モデルとBIF尺度により心理的距離を計測するWEB調査を実施した。 その結果、二段階モデルで環境配慮の態度を形成し行動意図がある人は、形成していない人よりも心理的距離が大きいことが明らかとなった。一方、行動評価においては、行動の結果がもたらす損失面(費用面)に対する重要度が高い場合は、心理的距離が小さくなっており、損失回避性が強く作用していることが明らかとなった。これらより二段階モデルにおいて環境配慮に対する態度と行動の整合性が低い場合は、心理的距離が小さくなり低レベル解釈により行動を評価しているために、損失回避性が強くなり、環境配慮行動の実践を阻害しているものと考えられる。従って、行動評価時点でも態度形成時に考慮した行動の望ましさを意識させることが必要と考えられ、高レベル解釈の意識を保持したまま行動評価を行うことができるコミュニケーションが必要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二段階モデルの態度(目標意図)の形成と行動(行動意図形成)評価において、態度形成と行動評価の段階では心理的距離が異なることが明らかとなり、心理的距離の違いによる意思決定問題(環境認知と行動評価)に対する解釈レベルの違いが、態度と行動の不一致をもたらしていることが検証された。具体的には環境配慮に対する態度形成時では、心理的距離が大きく、対象を望ましさの観点で捉える高レベル解釈による意思決定を行っているが、態度と行動の不一致が見られる場合では行動評価時の心理的距離が小さく対象行動の実行可能性をより具体的な要因に着目した評価を行っていることが明らかとなった。 さらには、環境配慮行動を実践する意思決定である行動評価においては、行動実行に対する心理的距離が近くなっていることから、行動の実行可能性評価ではより具体的な行動要因に着目する心理が働き、損失回避性が強く作用するため行動に伴うコストや行動の結果がもたらす損失面に対する評価(重要度)が高まることが明らかとなった。 以上の結果は、目標意図形成段階では環境配慮に対する態度を望ましさのレベルで捉えて環境認知すること、行動意図形成段階では環境配慮行動の実行可能性の視点で捉えて行動実践に対する判断を行うとする二段階モデルの概念と一致するものであることが確認されたこととなる。しかし、その一方では心理的距離が小さい場合は、行動の実行可能性に関する便益費用評価において損失評価のウエイトが増加するために、行動評価のネガティブ側面が強調され、環境配慮の態度とは整合しない行動をとることとなることが確認できた。このため、心理的距離や解釈レベルの操作を伴うコミュニケーションが環境配慮行動実践をもたらす可能性を見いだせたことと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
二段階モデルの態度形成と行動評価の段階で心理的距離が異なることが態度と行動の不一致をもたらすことが確認された。特に行動評価段階における損失回避性の作用が行動評価を環境配慮行動から遠ざけることとなっていることが重要なポイントと考えられる。 そこで、今後は、心理的距離が近くなると損失面の重要度が増加し便益面を過小評価する可能性があることから、心理的距離が小さくても高レベル解釈の視点である環境配慮の望ましさの意識を再生させるコミュニケーション方法を追究する必要がある。このため、心理的距離を小さくする操作、あるいは解釈レベルを低レベル解釈に操作することで、行動のコストや行動結果がもたらす損失面の重要度が増加することを確認しつつ、心理的距離が大きい、あるいは解釈レベルが高レベル解釈の状態の時に意識される環境配慮の望ましさを想起させる調査設計を施した調査を行い、環境配慮の望ましさを想起させるコミュニケーションの有効性を確認する計画である。また、近年の再生可能エネルギーや省エネ行動にも着目した調査設計を行い、コンジョイント法やBWS(ベスト・ワースト・スケーリング)法を援用して効用水準の変化と解釈レベルや心理的距離の関係を解明することとしている。
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