研究課題/領域番号 |
17H02016
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
江藤 望 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60345642)
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研究分担者 |
大村 雅章 金沢大学, 学校教育系, 教授 (00324062)
菅原 裕文 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (40537875)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シエナ派 / フレスコ画 / ストゥッコ / 漆喰 / シモーネ・マルティーニ / 国際ゴシック様式 / 絵画術の書 / チェンニーノ・チェンニーニ |
研究実績の概要 |
本研究を進めるにあたって、モザイク画の技法材料がご専門の工藤晴也 東京芸術大学教授、テンペラ画に造詣が深い紀井利臣 跡見女子大学准教授、そしてモザイク研究の世界的権威であるチェッティ・ムスコリーノ教授(前ラヴェンナ国立博物館長)に、これからの研究計画に対するアドバイスをいただいた。(5月22日~24日) 現地調査(2月18日~3月2日)において、シエナ派の巨匠シモーネ・マルティーニのフレスコ画『マエスタ』(シエナ・プッブリコ宮)そして、その2年後の1317年に同テーマ、同構図で描かれたマルティーニの義理の兄弟リッポ・メンミによる『マエスタ』(サン・ジミニャーノ ポポロ宮)を調査した。両作品とも聖母子や聖人等の頭上に円光が施されており、そのすべてにシエナ派特有の見事なレリーフがストゥッコ技法で装飾されていた。それらは、漆喰を盛り上げ硬化するまでの軟らかいうちに型押しして造形する手法が採られていた。 サン・ジミニャーノの参事会教会には、シエナ派によるフレスコ画が多く描かれている。これらを調査した結果、円光以外に、特に傭兵の甲冑の表現を中心にストゥッコ技法が多く取り入れられていたことがわかった。 また同現地調査では、国際ゴシック様式が展開する契機となったマルティーニの南フランス招聘について、その足跡を辿った。アビニヨンの教皇庁やドゥーモの壁画装飾に携わったと言われているが、現存するものは僅かでしかも損傷が激しかった。しかし、シノピア(フレスコ画の下描き)からはマルティーニの秀逸を極めた筆触を直に確認することができた。あわせて円光に取り入れられたストゥッコ技法が確認でき、詳細な画像データも入手することができた。 今年度最後に、先の工藤、紀井の両氏と絵画技法材料の研究者佐藤一郎 金沢美術工芸大学教授を招聘し、壁画の技法研究をテーマに研究セミナー(一般公開)を開催した。(3月25日)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、今年度はシエナ派のフレスコ画を中心に現地調査を行った。調査では、今後のストゥッコ技法の解明への手がかりとなる詳細な画像データが入手できた。また先述のとおり、シモーネ・マルティーニの南フランス・アビニヨンでの足跡を辿ったところ、マルティーニの死後に同じくイタリアから招聘されたヴィテルボ出身の画家マッテーオ・ジョバネッティのフレスコ画には、円光にシエナ派の影響と考えられるストゥッコ技法が採用されていた。今後、マッテーオのアビニヨン招聘前の作品を調査する必要性が出るなどの、研究の新たな展開が見えてきた。 以上の今年度の研究実績により、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ストゥッコ技法の解明に関しては、H29 年度の現地調査で入手した画像資料を基に作家別に装飾様式を分析する。特に、シエナ派の中でも最も卓越したストゥッコ技能を持つシモーネ・マルティーニを中心に、その周辺の画家、具体的にはマルティーニと共同制作した経験を持つリッポ・メンミの装飾様式との比較検証をおこなう。この検証の中で、装飾に使用された型押しの道具の分析を実施する。特に、シモーネ作『マエスタ』(1315)はH29年度までのフィールド調査で、詳細に調査しているので、今後、装飾のための道具をパーツ別に分析するとともに、その復元に取り組みたい。 国際ゴシック様式における技法的検証に関しては、H29年度の現地調査でアビニヨンに招聘されたイタリアのヴィテルボ出身の画家マッテーオ・ジョバネッティの作品が重要であることが判った。彼のアビニヨン教皇庁に描かれた作品には、シエナ派の影響が色濃く表れていたからだ。H30年度の現地調査では、マッテーオが招聘される前のヴィテルボで描かれた彼の作品を調査することで、シエナ派の影響をさらに明確にしたい。また今後3年にわたる現地調査では、シエナ派の技法がアビニヨンからいかにヨーロッパ全土へ展開していったかリサーチする計画である。 昨年度に引き続き、モザイク研究の世界的権威であるチェッティ・ムスコリーノ教授(前ラヴェンナ国立博物館長)に、本研究への評価と助言をお願いする予定にしている。また今年度は、これまでのフィールド調査に基づいた「フレスコ画におけるストゥッコと金属箔の技法」についての報告書を作成する予定である。
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