研究課題/領域番号 |
17H02323
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
土肥 秀行 立命館大学, 文学部, 教授 (40334271)
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研究分担者 |
和田 忠彦 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (50158698)
石田 聖子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員 (10795230)
巖谷 睦月 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (40749199)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 新前衛派 / モダニズム / 前衛 / 未来派 |
研究実績の概要 |
研究代表者・土肥は、前年度のローマでの研究成果の発展に努めた。すなわち戦間期=ファシズム期の文化的環境および代表的文化人の活動について、資料整備と執筆を行った。成果は、9月に行った口頭発表「1926年のマリネッティ――新たな劇批評と初の南米旅行」(原文は伊語と西語)とその後にアルゼンチン・イタリア文学会誌に投稿し掲載内定した同題論文に反映している。9月の大会時には、研究分担者の巖谷氏とパネルを組むことができた。 9月の経験から培われた問題意識は、土肥が「規範回帰」と呼ぶところの1910年代の前衛に対する反動への視座となっている。12月の口頭発表時には、早稲田大学イタリア研究会のメンバーと、「規範回帰」(秩序回帰)の定義について活発な議論を交わすことができた。 研究分担者の和田氏とは2018年2月ローマでのシンポジウムの論集の編集を続けている。ローマを中心に活動した歴史的前衛を特集する一冊となる。発行は2019年度中を予定している。この論集には同じく研究分担者の石田氏の初期実験的映像についての論文も含まれる。シンポジウムと論集を経て、われわれのなかに芽生えてきた映像を軸とした前衛理解について、いずれ国際的な共同研究プロジェクトを組み、科学研究費もねらっていく方針がたてられている。 一方でローマ大学とのコラボは、「前衛その後」へと関心を広げ、戦後文学について、特にイタリアの「ポストモダン」といわれる作品群を対象とするに至っている。これは2019年2月のローマでの合同講演会を助走とし、2019年度の国際シンポジウムに向けた問題意識の醸成が図られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に掲げた目標到達の道しるべとなる、書物・論文が量と質ともに充実した二年目となった。土肥寄稿の論集が三種、言語的にもバラエティある組み合わせとなった(和、伊、伊西)。それらがテーマ的に共通点をもつとすれば、20世紀文学および芸術を貫く問題としての規範の桎梏とそこからの逸脱である。この二要素のデュアリズムにとって、1920年代、1960年代と度々契機が訪れた。2018年5月に口頭発表し、その後紀要論文として扱ったテーマ「風景の不在」にしても、一次大戦後の1920年代的な美のゆらぎに注目していた。不在と実在のあわいにあって、脱・唯美的な世界観を論じた論文となった(『立命館言語文化研究』30巻4号における特集「イタリアの都市における文化的表象」に含まれる)。つまるところ一次大戦前から活動する前衛第一世代と「前衛派」が、「参戦派」として活動を続けるなかで抱いた世界観である。このテーマは、研究代表者において、境界の世界・人という新たな分野への関心につながり、一次大戦の俘虜の世界史という今後発展させるべき課題を生んだ。研究分担者の和田氏は、二次大戦後の小説の危機により深く関わっていく。歴史とお伽噺に範をとる戦後のレアリズム文学から、小説そのものの否定につながる1970年代の実験まで、小説家イタロ・カルヴィーノの作品群を軸としつつ、小説の歴史そのものの再検討へとむかう。ローマ大学やミラノ大学の専門家との連携を進めている。同じく分担者の石田氏は、歴史的前衛における身体性(笑い)と映像表現をキーワードに、さらなる研究の深化を図った。研究分担者・巖谷氏は、1930年代のフォンターナ芸術に(ファシズム的)スペクタクル性を読み込み、新たな前衛芸術研究の地平を拓いている。共同運営体制を敷く研究において、当初の予想以上にそれぞれが新しい展開をみせる一年となった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる今年度は、国際ワークショップおよび国際シンポジウムの開催を研究活動の目玉とする。ローマ大学講師チェチリア・ベッロ氏をゲストとして迎え、6/23国際シンポジウム「資料館における前衛研究―主題と方法」開催(於:立命館大学、ベッロ氏、土肥、石田氏が発表)、6/27国際ワークショップ「前衛とジェンダーの問題」(於:東京外国語大学、ベッロ氏が講演、和田氏、土肥、小久保真理恵氏と討論)を実施する。発表原稿と討論内容は、研究紀要「立命館言語文化研究」と「東京外国語大学総合文化研究」に分かれて掲載される。ベッロ氏の文献学とテキスト校閲理論から現代美術批評までの広い知見でもって、これらの機会が有益なものになると確信する。続いて12月にはローマ大学准教授ラウラ・ディ・ニコラ氏をゲストに12/4国際シンポジウム「ポストモダン小説の歴史化」(於:立命館大学、ベッロ氏、土肥、和田氏が発表)を開催する。イタロ・カルヴィーノによる実験小説から40年の歴史が過ぎ、いまあらためてその斬新さと歴史化について論議し合う。発表原稿と討議内容は研究紀要「立命館言語文化研究」上に2019年度内に掲載する。2020年3月には土肥が英国ダーハム大学で開催されるイタリア現代文学セミナーで複数回講演を行う。6月と12月と3月のイタリア語原稿は、2018年2月ローマでの国際シンポジウムの発表原稿と合わせてイタリアで出版する予定である(2020年度前半のうち、フィレンツェ市 Franco Cesati Editore社から紙媒体とオンライン出版)。これをもって当研究の総決算とする。
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