研究課題/領域番号 |
17H02330
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
西尾 哲夫 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (90221473)
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研究分担者 |
小田 淳一 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (10177230)
岡本 尚子 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 外来研究員 (90600817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 外国文学 / アラブ文学 / 比較文学 / 中東 / イスラーム |
研究実績の概要 |
本研究ではシンドバード航海記の成立過程に関する以下の研究項目を実施した。 1 写本の収集とその分類にかかる項目として、引き続き英国図書館所蔵写本を分析対象として書誌的データベースを作成し、あわせて当該写本の熟覧調査ならびに関連エピソードを含む物語写本の情報収集をし、アラビアンナイト所収のシンドバード航海記に関する書誌的データベースを作成した。 2 写本の校訂にかかる項目として、引き続きアレッポ・シリア正教会とトルコ・マルディン教会所蔵ガルシューニー写本の校訂ならびにペティス・ドラクロワ訳仏文写本(クリーブランド州立図書館ならびにバイエルン図書館蔵)の校訂を実施した。 3 物語構造とその相関関係の分析にかかる項目として、ガラン版シンドバード航海記ならびにカルカッタ第二版等のいわゆる標準エジプト系伝承の物語構造との比較を行うために物語情報の整理を引き続きおこなった。 4 原テキストの復元にかかる項目として、データベース化したすべてのガルシューニー写本の分析をおこなうとともに、とくに各航海の物語展開の異同を分析するための物語構造にかかる情報整理をおこない、その成果を論文にした(刊行予定)。 5 研究成果にかかる特筆すべきこととして、『ガラン版千一夜物語』(岩波書店)の訳業は本邦における最初の全訳であるが、日本のアラビアンナイト受容だけでなく、中東研究や文学研究における一つの画期的な仕事として、代表的な新聞の文化欄や書評欄で高い評価を受けた。翻訳においてはフランス語原典初版(1705~1717)を底本としたが、18世紀に刊行された再版を網羅的に参照しただけでなく、ガランが底本とした15世紀のアラビア語写本(ガラン写本)と照合しながら作業を進めた。その意味ではフランス語文献学および中世アラビア語文献学の双方からガラン版を再評価することで、新たな発見や新たな研究テーマの開拓につながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『ガラン版千一夜物語』(岩波書店)の翻訳を通じて、シンドバードをはじめガランがガラン写本ではなく別のアラビア語写本から訳したと推定されていたが従来の研究では底本がわからなかった物語について、文献言語学的な分析によってこれらの「孤児の物語」とよばれるものについてもガランが底本とした写本を新たに同定することができた。またこの新発見を通じて、例えばシンドバードの場合のようにキリスト教徒が伝承してきた物語系統群の新発見を通じて、アラビアンナイトがイスラム的な価値観を代表する形で形成されてきただけでなく、その伝承においてはキリスト教徒も重要な役割を果たしてきた可能性が高いことが判明し、アラビアンナイト形成史に関する新たな仮説を提示することができた。
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今後の研究の推進方策 |
計画調書に記載した通りに、キリスト教徒の伝承になるシンドバード航海記に関する他の重要な写本の校訂作業を持続するとともに、物語構造の分析だけでなく、物語中に記述された地理情報や民族誌情報に関する分析も継続させることで、ムスリムによる伝承との異同を明らかにし、シンドバード航海記の成立過程に関する仮説を提示する。
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