研究課題
本研究はニホンザルの社会行動の文化として最近知られるようになった抱擁行動をインテンシヴ、エクステンシヴな両方のアプローチから明らかにすることを目的としている。今年度は、インテンシヴ・アプローチとしては、抱擁行動の見られる個体群由来の上野動物園群において、下岡が2017年10月から2018年2月にかけて調査を行った。その結果、既報にあるようなオトナメス同士の毛づくろい中の抱擁はほとんど見られず、オトナメス同士の同性愛行動中の抱擁行動、また、オトナオスとオトナメス間における交尾に先立つ抱擁行動が多数観察された。いずれも両個体の体を前後に揺さぶる、リップスマッキングを伴う、掌を開閉するといったこれまでに他地域で観察された抱擁行動と類似した特徴を有していたが、文脈が大きく異なった。他方、抱擁行動が数年前にごく一部の母子で見られ始めていた岡山県真庭市神庭の滝自然公園の勝山群を対象として、上野が2017年12月から2018年2月にかけて、母親が未成体個体を抱擁する際の行動を観察・記録した。記録した38回の抱擁は、すべて子が0歳や1歳の場合であり、それ以上の年齢の子と母親は、抱擁行動をほとんど行わないようだった。また、抱擁行動を行うときに母親が体を前後に揺すったり掌の開閉動作をするのは一部の個体に限られており、行動が広く伝播しているという証拠は得られなかった。また、エクステンシブ・アプローチとしては、抱擁行動の見られる個体群である屋久島において、群間の変異を探るべく中川が2018年3月に8日間で7群の調査を行った。この間抱擁行動の唯一の観察事例はウミB群から得られ、この事例ではオトナメス同士の対面型で相手を掴んだ掌を開閉動する点では屋久島の既知のパターンのひとつではあったが、開閉する掌を相手の体から離したり、またくっつけたりという激しいものであったという点で少し異なるパターンが見られた。
3: やや遅れている
研究代表者の中川が野外調査の時間がとれなかった分、進捗が遅れた。
研究代表者の中川が野外調査の時間がとれない分、抱擁行動が知られている個体群のひとつ金華山においては、過去のデータの再分析、ならびに指導する大学院生の協力を仰ぐことにより補う予定である。また、屋久島における抱擁行動の発達データにしても、指導大学院生を研究協力者として推進することとなった。
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