研究課題/領域番号 |
17H02891
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下田 正 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (70135656)
|
研究分担者 |
小田原 厚子 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30264013)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 中性子過剰核の構造 / island of inversion / 核スピン偏極 / ベータ遅発崩壊 / 32Mgと33Alの構造 / 変形共存 / レーザー光ポンピング / 中性子検出器 |
研究実績の概要 |
本研究は、中性子魔法数20付近の中性子過剰核における特異な核構造の発現機構探究の一環として、32Mg や 33Al の核構造を解明することを目的としている。我々は独自の手法、すなわち、不安定核のスピンを偏極させ、そのベータ崩壊の空間的非対称度と引き続いて放出される中性子とガンマ線を同時に計測することによって、娘核準位一つひとつのスピン・パリティを精度よく決定できるという手法によって、この課題に取り組んできた。 平成30年度の研究実績は以下の3つにまとめられる。1.カナダTRIUMFでの実験に向けて、実験プロポーザルが高い優先順位で認めさせること、2.31Mgにおける変形共存現象の発見という成果を詳細な論文にまとめ我々の独自の手法の有効性をアピールすること、3.検出器系や測定回路系を現地に持ち込み、組み上げること。 課題1については、2つの実験プロポーザル(32Mg 原子の超微細構造の測定と 33Al 核の構造解明)を提出し、2つとも採択された(それぞれ、medium high priority と high priority の評価)。課題2については、レフェリーから高い評価を得て、Physical Review C 誌の19ページの詳細な論文として出版された。課題3については、カナダ・バンクーバーに赴き、実験装置を7割程度を組み上げた。修理が必要なものや新たに輸送すべきものを確認し、次年度に整備することとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた課題1については、平成30年6月18、19日の実験課題審査委員会で採択された。ビーム強度が期待される 33Al の実験は最優先で実施すべしと判断され、ビーム開発と検出器系のアップグレードが必要な 31Mg の実験には第2位の優先順位が与えられた。これを受けて、新たに開発した中性子検出器系の仕上げと性能評価を行うと同時に、ベータ線検出器系の改造を行って立体角増大をはかった。中性子検出器系の性能評価には、中性子放出の強度と崩壊幅が知られている不安定核 17N を用いた較正実験を、大阪大学核物理研究センターにおいて行った。その結果、中性子が周辺の実験装置で散乱されてから検出器に飛び込むイベントがスペクトルをゆがめることを、実験とシミュレーションの比較によって発見した。このような定量的な評価は世界初である。散乱の効果を取り込んだデータ解析の手法の検討が進行中である。 課題2については、ごく最近大規模な殻模型計算に成功した東京大学の理論グループに 31Mg の構造に関して計算をしていただき、殻模型的視点からの核構造の議論を行った。核物理分野の一流の雑誌である Physical Review C 誌に投稿したところ、方法のユニークさと物理的結果の斬新さに高い評価を受けて出版に至った。 課題3については、検出器類(Ge検出器8台、ベータ線検出器10台、中性子検出器:大2台、小6台)を設置するための架台を設計・製作し、平成31年2月から3月にかけてカナダTRIUMFに赴き、検出器系と回路系の組み上げを行った。全体の7割ほどができたが、故障や不具合への対処が必要なことがわかった。また、現地グループや実験スケジュール責任者との議論の結果、平成31年秋に2つの実験を継続的に行うよう調整することとなった。 以上の進捗から、「おおむね順調に進展している」と判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年秋に2つの実験(32Mg 原子の超微細構造の測定と 33Al 核の構造解明)を行う予定であるが、平成30年度末までに明らかとなった回路系の故障修理や不足物品の調達にまず取り組む。同時に、中性子スペクトルの解析手法を確立し、論文にまとめる。 平成31年秋に実験を行い。帰国後、ただちにデータ解析を開始する。
|