研究課題/領域番号 |
17H02943
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松原 弘樹 九州大学, 理学研究院, 准教授 (00372748)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | カーン転移 / 線張力 / ナノ粒子 / ナノフルイド |
研究実績の概要 |
本年度は、サイズの異なるシリカ微粒子を水と2,6-ルチジンの二液相系に分散させ、下部臨界溶解温度 T(L) に接近する過程で微粒子の分散状態がどのように変化するか動的光散乱装置と目視観察により研究した。 一般的には高温ではシリカ粒子はルチジン相に分散するが、カーン転移と呼ばれる温度になるとシリカ粒子の溶媒への濡れ性が変化し、シリカ粒子は水に分散するようになる。このカーン転移温度は本来は溶媒と粒子の種類だけで決まるものであるが、今回の実験から、粒径が1000 nm、100 nm、50 nm、10 nmと小さくなっていくにつれ、徐々にカーン転移温度 T(c) が低温側にシフトし、最終的にの10 nmのシリカナノ粒子を用いた場合はほぼ下部臨界溶解点と一致することが明らかとなった。また、一液相領域にカーン転移を延長した場合に現れる微粒子凝集点(プリウェッティング転移)の領域も粒子サイズの減少とともに縮小した。 濡れ転移の粒子サイズ依存性は、ルチジン-水、水ーシリカ、ルチジン-シリカそれぞれの界面の界面張力の釣合いによって濡れ転移点を決める従来の理論に、これら三つの界面が接触してできる一次元境界の過剰エネルギー(線張力)の効果を加味することで説明できた。 また、下部臨界溶解点近傍での界面張力の温度依存性はスケーリング則にしたがって変化することがよく知られているが、今回は界面張力に加えて、線張力もスケーリングに取り込んで解析を行い、線張力に関してはT(c)-T(L)の指数を1.0とすることで、観測結果をほぼ定量的に再現することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、今年度は水-ルチジン2液相系にシリカ粒子を分散させた実験を当初の予定通り進めることができ、実験結果も申請段階で予想した通りの結果であった。これに加え「研究実績の概要」の項でも述べたように、カーン転移温度の粒子サイズ依存性について、定性的には線張力の効果を加味して、更に線張力を加えたスケーリングによってほぼ定量的にその挙動を説明できた。これは申請段階では研究3年目に研究協力者と連携して実験を総括し、ナノ粒子分散系においてはサイズによって分散挙動に大きな違いがあることを提案するという、この研究の大きな部分が、その理論的なバックグラウンドまで含めて初年度で概ね明らかにできた点で大きな進捗であるといえる。この研究成果は平成30年度の早い段階で論文にまとめて発表したいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果は大変満足のいくものであったが、線張力の臨界指数という考え方は過去に例がなく、当該分野の多くの研究者に十分にアピールできるように溶媒や粒子の種類を変えて同様の実験を行い、その普遍性を示す必要はあると考えている。したがって2年目以降は、当初の申請計画に記載した通り、微粒子としては金ナノ粒子とラテックス粒子、溶媒にはポリエチレングリコールを新しく採用して、研究を進めたい。また、カーン転移の粒子サイズ依存性についてはその挙動を説明する具体的なアイデアが生まれつつあるが、もう一つの目的でもあった粒子サイズとナノ粒子分散液の流動性や粘性との関係はまだ明らかにできていない。この点についても2年目以降の課題として注力していく予定である。
|