研究課題/領域番号 |
17H03035
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岸川 圭希 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (40241939)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 液晶 / 柱状相 / 強誘電性 / ポリマー / 電圧応答 / 分極 / 第二次高調波発生 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、キラリティーの導入による強誘電性発現の調査と液晶構造の架橋による固定を行った。 N,N'-bis(3,4,5-trialkoxyphenyl)ureaのアルキル基として(S)-シトロネリル基を導入した新規化合物を合成し、この化合物が高温域に六方柱状相、低温域に矩形柱状相の液晶状態を示すことを偏光顕微鏡観察により確認した。分子充填構造についてはX線回折測定で解析を行い、顕微鏡観察と矛盾がないことを確かめた。次に、液晶セルに注入し、三角波電圧印加によるスイッチング挙動を調査し、0.1Hz~1Hzで分極反転ピークを観測し、自発分極値が1.1μC/平方センチメートルであり、電圧に応答して、カラム内の全ウレア分子が反転していることを確認した。次に、赤外レーザーを用いた第二次高調波発生(SHG)測定から分極状態を調査した。電圧印加前は分極がないが、電圧印加後に分極が発生し、電圧除去しても分極が保持することを確認した。また、SHG干渉法により、電圧印加方向に応じて、分極方向も切り替わっていることが確かめられた。 スピンコートにより薄膜化し、今回購入した原子間力顕微鏡により、表面形状を観測したところ、低濃度溶液を用いると球状になり、高濃度溶液を用いると、繊維状にウレア分子が集合していることが判明した。強誘電性・焦電性を調査するためにピアゾ応答モードを試したが、試料のレスポンスは明瞭に観測できなかった。しかし、ケルビン力顕微鏡(KFM)により、表面電荷を調査し、電圧印加・除去により、正電荷、負電荷の記録が残ることが明確に確認できた。 また、アルキル基としてオレイル基(-(CH2)8-CH=CH-(CH2)8-H)を導入した新規化合物を合成し、六方柱状相、矩形柱状相を確認し、ジチオールとの架橋反応により、組織を保持したままフィルムとなることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で最も重要なことは、完全な強誘電性柱状液晶相の実現であり、この点に関して、瞬時に電圧応答し、分極を保持できる化合物が見つかったことは極めて大きな進展である。2003年より、液晶性ウレア化合物を用いて、強誘電性を追求してきたが、この物質は強誘電性という意味では、現在知られている柱状液晶化合物の中で最も完全なものである。分子構造は簡単であり、合成も比較的容易であるため、今後の更なる発展が期待される。また、分子中のアルキル鎖内に二重結合を有する分子(R=オレイル基)においては、ジチオールとの架橋反応で、液晶組織を保持したまま固定化し、フィルムとして取り出すことに成功した。上記のシトロネリル基も二重結合を有したアルキル鎖であるため、同様な方法で、固定化しフィルム化できると考えている。 また、購入した原子間力顕微鏡により、化合物の溶液濃度と集合状態の関係を知ることができ、これまで観測できなかった超構造を数多く見出すことができた。さらに、この装置のKFMモードにより、表面電位を可視化することができるので、正電荷と負電荷を有する部分がナノレベルで赤と青で明確に区別できることが判明した。 以上のように、完全な強誘電性柱状液晶化合物の発見、その液晶組織の一体化・フィルム化、ナノレベルでの表面電位を測定することによる記録の読み取り、のすべてに成功した。したがって、平成29年度の本課題の進捗状況は当初の計画以上に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、上記の強誘電性柱状液晶化合物のメカニズム研究と分子構造改良による高速化・低温化について検討を行う予定である。強誘電性の発現自体は再現性よく確認できているが、なぜ強誘電性が生じているのかは現在も不明確な部分が多い。例えば、分極が緩和しないで保持するメカニズムは何なのか、分子構造のどこが必要な部分なのか、キラリティーは必要なのか、という根本的なところを解明する研究を推進していく必要がある。また、スイッチング速度は最高で、1秒付近であるため、この速度を10倍~100倍に上げて、スイッチング性能を向上させる必要がある。また、デバイスとしては、室温で液晶状態であることが重要であり、アルキル鎖の形状を調整しての液晶温度の低温化、ジチオールを使った架橋反応により液晶状態のままでの組織の固定化等を試みていく。ジチオールは現在までデカンジチオールのみで確かめているが、他の構造を有するチオールについても検討し、室温での強誘電性を追求する。 また、これらのウレア化合物をスピンコートにより薄膜化し、原子間力顕微鏡の探針に電圧を印加して、薄膜上に図形を記録し、KFMで読み取る実験を始める。この実験が成功した場合には電圧印加した試料薄膜上に、数ナノレベルの大きさを有する判別しやすい分子や、光学的に識別しやすい蛍光分子などを作用させて、図形上にこれらの分子が配列していることを確認する。これらの配列方法が確立した段階で、重合性の新規分子を設計して合成ルートの開発を進める。
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