研究課題/領域番号 |
17H03035
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岸川 圭希 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (40241939)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 液晶 / 柱状相 / 強誘電性 / ポリマー / 電圧応答 / 分極 / 第二次高調波発生 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
2018年度は下記の(1)~(3)の課題について行い、成果を得ることができた。 (1)メカニズムの解明:(S)-シトロネリル基を導入したジフェニルウレアにおいて、昨年と異なる実験者が合成と評価を行っても、同様な強誘電性が再現できた。また、CDスペクトルと計算により求めたECD(electronic circular dichroism)スペクトルの比較から右巻きの螺旋が生じていることが判明した。水素結合に加えて、螺旋を描くことによるπ-π相互作用や双極子-双極子相互作用など、カラム内部での安定化が強誘電性発現の原因である可能性が示唆された。 (2)光学不活性な原料((±)-シトロネロール)を用いたウレア分子の合成と強誘電性の確認:ラセミ体のシトロネロールを原料としてウレア分子を合成したところ、CDシグナルを与えることが判明し、SHG測定で分極の維持や電圧印加による極性反転が確認でき、ラセミ体においても強誘電性が発現していることが確認できた。ラセミ体の原料を用いた場合、理論上21種類の立体異性体が生じるはずであるが、それぞれの異性体が自発的にソーティングし、螺旋構造を生じて、キラルドメインを形成していることが示唆された。光学活性体を用いなくても強誘電性が発現する事実は、安価な原料が大量に利用でき、合成的に大きなメリットである。 (3)構造最適化による電場応答の高速化:応答性能を向上させるために、(1)で合成したウレア分子の両ウイングに-C6H4CH2O―を導入した分子長の長い化合物を合成したところ、XRD解析で、2分子が分子双極子を打ち消すように逆向きで1ディスクを形成していることが明らかになった。本ウレア分子は電場応答が遅く、電圧印加をやめると、全体の分極は消失してしまった。ウレア分子における分子長の増加は強誘電性発現には不利に働くことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の本研究課題は、以下のように(1)~(4)のように順調に研究成果が得られている。 (1)メカニズムの解明の進展:(S)-シトロネリル基を導入したジフェニルウレアにおいて、昨年達成できた強誘電性が十分に再現できた。また、CDスペクトルと計算により求めたECD(electronic circular dichroism)スペクトルの比較から右巻きの螺旋が生じていることが判明した。螺旋を描くことによるπ-π相互作用や双極子-双極子相互作用など、カラム内部での安定化が強誘電性発現の原因である可能性が示唆された。 (2)光学不活性な原料でも強誘電性を達成:ラセミ体のシトロネロールを原料としてウレア分子を合成したところ、CDシグナルが観測されるとともに、SHG測定で分極の維持や極性反転が確認できた。ラセミ体の原料を用いた場合においても、それぞれの異性体が自発的にソーティングし、螺旋構造を生じて、キラルドメインを形成していることが示唆された。今後、光学活性体を用いなくても強誘電性が発現する事実は、安価な原料が大量に利用でき、合成的に大きなメリットとなると思われる。 (3)構造最適化による電場応答の高速化:(1)で合成したウレア分子の両ウイングに-C6H4CH2O―を導入し分子長の長い化合物を合成したところ、分子集合状態が異なることが判明した。応答性能は向上しなかったが、今後の設計方針において重要な知見であると考えられる。 (4)カラム構造の高分子化による固定:アルキル基末端にビニル基を有するウレア化合物においては、光開始剤1.5mol%用いた系により、光重合が進行することを見出し、アルキル鎖の途中に二重結合のあるオレイル基を有するウレア分子においては、ジチオールを光反応させて一体化させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、本研究課題の最終年度として、本研究のまとめを行う一方で、次の展開を考えたアプローチについても行いたい。 (1)メカニズムの詳細な解明:光学活性なアルキル鎖に導入すると強誘電性が発現するメカニズムを解明するため、カラム内外でどのような相互作用が働くのかを、DFT計算(Gaussian)による螺旋構造の確認と、分子動力学計算(GROMACS、AMBER)により温度をかけたときの螺旋形成の様子をシミュレーションし、螺旋が形成すること、および、螺旋が重要な役割をしていることを突き止める。 (2)チオール・エン反応による液晶状態の高分子化:ジフェニルウレアの6つのシトロネリル基は末端にそれぞれ二重結合を有しているので、液晶状態でオクタンジチオールを反応させて、カラム間を繋ぎポリマーシートとする。電場応答することを調査するなど、強誘電性ポリマーシートとして十分な性質を保持していること確認する。 (3)モノマーおよびポリマーシートへの電圧印加による情報記録:プローブ顕微鏡探針に電圧をかけながら、ベクタースキャンというソフトウエアで制御して、字や模様を記録する。昨年度は加熱時に交流ヒーターの雑音が入ってしまったため、今回は直流電源で加熱制御を試みる。 (4)構造改良による熱安定性の向上:ジフェニルウレア骨格の光・熱安定性が低いことが、実用化の障害となることが考えられるため、構造を改良して安定性を高めたい。具体的には中央部のウレア基をジアミド構造に改良したものを分子設計・合成し、液晶相を確認・性能の評価を行いたい。 (5)高速応答化(前年度の続き):昨年度は、ウレアの2つの直線的な集合体がカラム内でアンチパラレルになってしまい、分極を打ち消す構造になってしまったため、今回は、立体的に嵩張るウレア分子を合成し、一つのカラムに一つの分子集合体が収まるように分子設計し、性能を評価する。
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