本研究では、申請者独自の手法により多機能性中空ナノ粒子を開発し、従来とは異なる概念に基づいた新規アプローチによる肝硬変治療の有効性を解明することを目的としている。 前年度までに、以下の特徴を有する有機-無機中空ナノ粒子の合成に成功した。①中空ナノ粒子の骨格はジスルフィド(S-S)とシロキサン(Si-O-Si)から成る(これらの割合は3:2)。②中空ナノ粒子は薬剤や色素など多様な機能性分子を内包できる。③細胞内のトリペプチドであるグルタチオンにより、中空ナノ粒子を構成するジスルフィドが切れ、チオール(SH)に還元される。この結果、中空ナノ粒子は分解し、内包されている薬剤が放出される。④蛍光色素を内包する中空ナノ粒子は、蛍光イメージングで全身および臓器内での分布を解明できる。⑤中空ナノ粒子表面にはチオールが存在し、表面修飾に活用できる。 ⑥中空ナノ粒子は活性酸素(ヒドロキシラジカル)を捕捉する。 2019年度は上記の特徴を有する中空ナノ粒子を用いて「星細胞および活性酸素による肝組織の線維化の阻止」と「クッパー細胞のコラーゲン線維分解酵素産生能の活用」という新たなアプローチにより、線維化した肝組織を正常状態に戻すことの実現可能性を評価した。In vivoイメージングおよび病理組織学的解析により、上記中空ナノ粒子が星細胞とクッパー細胞を共にターゲティングすることを明らかにした。生化学検査および病理組織学的解析により上記中空ナノ粒子を用いた治療効果を評価したところ、肝臓の線維化割合が減少し、組織構造が正常組織の構造に近づき、肝機能が回復したことを確認した。
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