研究課題
(1) 単ピクセル型TES型マイクロカロリメータの開発:シリコン基板でのコンプトン散乱による雑音の削減を目的として、シリコン基板の体積を従来の半分にしたTES(Transition-Edge Sensor)温度計を微細加工プロセスにより製作した。それにビスマス吸収体を取り付けて単ピクセル型TES型マイクロカロリメータを製作し、希釈冷凍機により冷却してガンマ線照射実験を行い、シリコン基板由来の雑音が半減していることを確認した。この素子に対して、662keV、1.17MeV、1.33MeVのガンマ線の検出実験を行なった。また、転移温度を100mK程度まで下げたTES温度計を製作した。(2) 位置検出型TES型マイクロカロリメータの開発:0.5mmx0.5mmx19mmの鉛をガンマ線吸収体として、その両端にTES温度計を1個ずつ取り付けた位置検出型TES型マイクロカロリメータを製作した。冷却して662keVのガンマ線を照射し、片側の温度計からの出力を解析することで吸収体へのガンマ線入射位置を推定した。さらに、本課題で前年度に開発したシミュレーターを使用して、この素子で両側読み出しした場合の性能を推定した。また、これまで両側読み出しができなかった理由として、鉛の熱膨張率が大きすぎるために冷却の際の熱収縮によって検出器が破損しやすいことが、今年度の実験で明らかになった。単ピクセル型で使用しているビスマスは検出効率、比熱、熱伝導率などは鉛と類似している一方で、適切な熱膨張率を持つため、ビスマスを位置検出型TES型マイクロカロリメータの吸収体として使用することで両端からの読み出しが可能になると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究では、片側読み出しでも原理的には全データを取得できることが明らかになったものの、実際に取得したデータでは信号とシリコン基板でのコンプトン散乱による雑音との弁別の不具合によりデータの一部が欠損していたことが後に明らかになった。今年度はこの不具合は解消され、全データを取得できたため、昨年度開発したシミュレーターを利用して、実測データを詳細に評価することができた。また、両側読み出しを実現するための指針が明らかになった。
(1) TES型マイクロカロリメータのエネルギー分解能は動作温度に強く依存する。これまでは転移温度170mK程度のTES温度計を使ってマイクロカロリメータを製作してきたが、今後は製作した100mK程度の転移温度のTES温度計を使用することで、エネルギー分解能の改善を目指す。(2) 長さ20mmのビスマスを吸収体としたTES型マイクロカロリメータを製作して、両端からの読み出しを行う。
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Journal of Low Temperature Physics
巻: 200 ページ: 233~238
10.1007/s10909-020-02518-y