研究課題/領域番号 |
17H03582
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 豊 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00419897)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非翻訳RNA / エピゲノム / 膠芽腫 |
研究実績の概要 |
がん細胞が環境に応じて変化する際に、細胞を制御する機構としてエピジェネティクスの関与は疑いがないが、どのようにエピゲノムが調節されるのかについては必ずしも理解が進んでいない。近年エピゲノム調節分子として長鎖非翻訳RNA(lncRNA)が注目されている。我々はこれまで細胞外シグナルで誘導されるlncRNA(TUG1)と、TUG1によるエピゲノム制御について明らかにしてきた。本研究では研究結果をさらに発展させ、① TUG1と相互作用するタンパク質によるエピゲノム調節、② RNAメチル化修飾(m6A)に関わるタンパク質、③ TUG1のm6Aメチル化修飾およびその生物学的意義、について解析することを目的とする。lncRNAによるエピゲノムネットワーク調節およびその分子機序を明らかにすることは、がん細胞の動態制御の解明のみならず新たな治療標的の探索につながる。今年度はがん細胞のみならず正常細胞におけるTUG1の機能を明らかにするためTUG1ノックアウトマウス(TUG1 KO)を樹立した。TUG1 KOマウスの発生過程を解析した結果、TUG1はDNA複製過程においてその調節に重要な働きをしており、特に組織幹細胞の維持に必要である可能性を見出した。これまでの解析からTUG1のがん幹細胞での重要性を報告してきたが、正常細胞でも幹細胞性の維持に必要であると考えられた。一方、TUG1 KOマウスは約70%が胎生致死をきたすが、胎生致死に至らず出生したマウスは、成体では明らかな表現型を示さなかった。さらにがん細胞においてTUG1の合成・分解、TUG1の細胞内局在、TUG1結合タンパク質との相互作用、がん細胞のみならず正常細胞に与える影響について明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、がん細胞が環境に応じて変化する際に、どのようにエピゲノムを調節するのかについてlncRNAのひとつであるTUG1に注目し、TUG1と相互作用するタンパク質によるエピゲノム調節、TUG1におけるm6Aメチル化修飾の制御法およびその生物学的意義、について解析することである。lncRNAによるエピゲノムネットワーク調節およびその分子機序を明らかにすることは、がん細胞の動態制御の解明のみならず新たな治療標的の探索につながる。今年度はm6Aメチル化修飾について、一分子での検出を目指しナノポア技術を用いた解析法の確立のための準備を行った。またTUG1 KOマウスの樹立に成功し、予測外の機能を発見した。そのため研究計画とは若干異なる方向に進めているが、きわめて新規性の高いlncRNAの機能を発見した点から十分な成果が得られていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的に従いTUG1の新規機能について重要な所見を得つつある。樹立したTUG1 KOマウスの解析を引き続き行う。特に胎生致死のメカニズムについて明らかにする。またTUG1の細胞内での機能解析と相互作用するタンパク質によるエピゲノム調節およびそのがん細胞の影響について解析を引き続き行う。またTUG1のm6Aメチル化修飾およびその生物学的意義についてもてナノポア技術を用いた解析法を引き続き試みる。同定したTUG1のm6A修飾RNA領域を合成し(100~140 nt、m6A修飾したもの)、m6Aの有無が今年度までに同定したタンパク質群との相互作用に及ぼす影響を解析する。がん幹細胞を用いてTUG1のm6A修飾RNA領域をCRISPR/Cas9システムを利用して取り除き、腫瘍形成能等の細胞に対する影響や、TUG1-EZH2の相互作用に与える影響について解析する。さらにヒストンH3K27メチル化状態についてもゲノムワイドに解析する。また細胞内のTUG1 の安定性や半減期への影響を解析する。
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