共生系において宿主と共生者がどのように統合的な遺伝子ネットワークを構築するかはほとんどわかっていない。本研究では、昆虫アブラムシと細菌ブフネラの共生系をモデルに、共生系の遺伝子ネットワークの制御機構と進化過程を解明することが目標である。今年度は、昨年度開発に成功したアブラムシのゲノム編集を活用した研究を重点的に展開した。また、新しくリリースされたアブラムシの染色体レベルのリファレンスゲノムに対応したデータ解析を行うことにより、これまで困難だった染色体レベルの遺伝子構造の議論が可能になった。 (研究1)転写因子Dllの遺伝子ネットワークの解明:ゲノム編集技術により、Dllの遺伝子ノックアウトに成功した。付属肢形成のマスター遺伝子であるDllは、多くの昆虫でその機能阻害により付属肢の欠失が起きるが、予想通りアブラムシでも同様の表現型が観察された。共生に対する表現型は現在検証中である。DllはX染色体に座上していることがわかった。 (研究2)シグナル分子BCRとシグナル伝達脂質による共生遺伝子発現制御の解明:BCRファミリー遺伝子のうち2つを、ゲノム編集によってノックアウトすることに成功した。共生に及ぼす表現型として、ブフネラの数と形態、宿主の成長速度や産仔数、遺伝子発現などをリードアウトとして、共生に対する影響を評価した。 (研究3) 当初、dual-RNA-seqによる遺伝子発現動態の解析を計画していたが、その代わりに新技術であるシングルセルRNA-seqを導入した。まだ予備実験の段階であり改善の余地はあるが、アブラムシ全身を使って、細胞解離、セルソーターによる細胞単離、シングルセルRNAseqライブラリ構築の一連のプロトコルをほぼ確立することができた。 (研究4)比較ゲノム解析による共生に関わるエレメントの同定を目指して、今年度、新たに3種の社会性アブラムシのゲノム解読に成功した。
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