研究課題
肝臓は物質の代謝や解毒を担う生命維持に必須の器官である。肝臓の細胞はこうした生理機能上、常に様々なストレスにさらされている。ストレスは細胞の老化や損傷を誘導する。これら異常細胞は組織の機能不全や腫瘍形成の原因となるため、排除する必要がある。しかしながら、肝臓における異常細胞の排除機構については不明な点が多く残されている。近年、肝臓のサイズを制御するシグナルとしてHippo-YAPシグナル伝達経路が注目されている。本シグナルのノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの解析によって、肝臓全体における転写共役因子YAPの活性化は肝肥大と肝がんを誘導することが示された。しかしながら、YAP活性化肝細胞の詳細な動態は不明な点が多い。我々は肝臓におけるYAP活性化細胞の動態を明らかにするため、マウス肝臓でモザイク解析を行った。その結果、1)アデノウイルスベクターを用いて肝臓内の約30%の肝細胞に活性型YAPを発現させると、肝臓は肥大し、活性型YAP発現肝細胞は増殖すること、2)一方、HTVi法を用いて活性型YAPを発現させた場合は、肝サイズは変化せず、活性型YAP発現肝細胞は、7日間で30%から3%まで減少すること、3)この肝細胞排除現象には獲得免疫を必要でないこと、4)YAP活性化肝細胞は、類洞へ細胞移動し、アポトーシスを起こした後、クッパー細胞によって貪食され、排除されること、5)アデノウイルスベクターとHTVi法の違いによる細胞応答の差は、肝障害の有無であること。6)HTVi法やエタノールによって、肝細胞と類洞内皮細胞の両者に傷害を与えた場合には細胞排除が誘導されること、が判明した。すなわち、Hippo-YAPシグナルは、肝臓のサイズ制御のみならず、肝臓の品質管理の制御にも関与することを示唆する。本研究成果はNature Communications誌に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
注目している転写共役因子YAPが細胞増殖を介して肝臓のサイズを制御することは知られていた。本研究成果によって、YAPの新規機能を見出し、英文原著論文に掲載することに成功したため。また、物理的力である圧力の可視化に成功したため。
新たに見出したYAPの新規機能を、FRETプローブを用いて、物理的力の観点から解析する。興味深い生命現象を物理的に説明する努力をする。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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