肝臓は、内胚葉由来の前腸の特定領域に幹細胞である肝芽細胞が発生し、細胞増殖と分化を経て、一定サイズの三次元(3D)器官に成長する。国内外を通じて、肝サイズや3D構造を制御する分子機構の解明が重要課題となっている。我々は、これら問題を解決する目的で、小型魚類メダカを用いた大規模な肝形成不全変異体のスクリーニングを行った。その結果、“肝臓が小さな緋扇(hiohgi) ”変異体や、“上皮を含む組織が扁平になるヒラメ(hirame) ”変異体が単離された。これら変異体の解析から、肝サイズの制御にレチノイン酸シグナルが重要であること、転写共役因子YAPが細胞張力を介して3D器官形成に必須の役割を果たしていることが明らかになった。また、国外の研究グループは、マウス肝臓でYAPを過剰発現させたり、上流のHippoシグナルを破綻させると、肝細胞は増殖し、肝臓は肥大し、肝細胞がんが発症することを報告した。さらに、我々は、イヌ腎上皮細胞MDCKにYAPを過剰発現させると、隣接細胞に圧力が誘導され、YAP発現細胞が頂端面に押し出されることを見出した。マウス肝臓においては、YAP依存的に障害肝細胞が排除されることを見出した。すなわち、Hippo-YAPシグナルは、細胞増殖や細胞張力などの細胞応答を介して、肝臓のサイズや肝臓の品質を制御することが示唆された。そこで、我々はアクチン結合タンパク質であるActininの特性を有するFRETプローブ(mCherry―クモ糸タンパク質―EGFPを基本構造を含む)を利用することで、物理力の可視化を試みた。その結果、時間依存的にMDCK細胞2細胞間にFRETが誘導されることを見出した。排除される2細胞間に生じる圧力の可能性が示唆された。最終年度には本物理的力を生じるために必要なシグナル経路の探索を行い、プロスタグランジンE2が必須の役割を果たすことを見出した。
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