研究課題/領域番号 |
17H04723
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研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
長野 真紀 神戸芸術工科大学, 芸術工学研究科, 助教 (10549679)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金門島 / 離島集落 / 越境 / 住文化 / 華人居住地 |
研究実績の概要 |
金門島および小金門島の自然・立地環境を把握するため、25,000分の1の地形模型を作製し、水系および道路、地形の高低差、平野部の土地利用について読み取る作業を進めた。次に、現況地図および衛星画像図、文献資料から集落の位置と地名を確認し、現地で空間特性の確認を行った。その結果、140集落(うち7集落が政府指定の伝統的集落)が現存し、20集落が廃村となっていることが明らかになった。現地では居住実態についても調査を行い、伝統的建築物の保存状態と合わせて、集落内部の生活環境について実態把握を行った。また、島内の居住者へヒアリングを実施し、住居を修復する際の条件や資金面の補助制度、南洋移住者の土地所有などに関する現状を聞きまとめた。台北の図書館では、日本統治時期の金門島に関する資料を収集することができたが、より詳細な内容については次年度以降の課題とする。 研究協力者の協力を得て、マレーシアおよびシンガポールにて、現地調査を行った。マレーシアでは、マラッカ海峡の歴史都市群としてユネスコ世界文化遺産に登録されている古都を対象に、ショップハウスと呼ばれる店舗併用住宅の配置計画、ファサードデザイン、内部プランの実測を行った。シンガポールでは華人居住区を対象に約1,500のショップハウス群の外観調査を実施した。都市計画当初、行政区と居住区が分けられ、居住区はさらに民族ごとに住むエリアが区別されており、当時の中華系・マレー系エリアで現存するショップハウスの内部プランについて実測を行った。民族ごとの居住地選定と土地利用については、今後、既往研究での理解を深めていく。研究協力者と次年度の現地調査計画をまとめ、金門島からの移住者が多い地域での調査と現地協力者の連携を確認した。 本年度の研究結果は、順次、学会で発表する予定で準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は台湾金門島、シンガポール、マレーシアにて現地調査を行い、金門島の居住環境を持続・発展させている空間要素と、移住によって新しく形成された南洋地域の居住空間の特性に焦点を当て、研究を遂行した。 金門島・小金門島では島内に現存する全140集落の実態把握を目的に、土地利用、空間規模、住居の保存状態について調査を展開した。その結果、廃村となった20集落についても確認することができ、現在、集落分布図および現況写真をまとめ、データベースの作成を進めている。さらに、台北および金門島の図書館にて地図や族譜に関する資料の収集を行った。 マレーシア・マラッカでは、ヨーロッパ列強の国々に支配された影響と、東西貿易の中継点として類稀な文化が形成された折衷文化や建築様式、そして文化的な町並みを構成している古都の空間構成把握を目的に調査を進めた。金門島からの移住者が多いマレーシアでは、中華圏の生活文化が継承されており、住宅の内部プランと生活様式を重点的に踏査した。 シンガポールではダウンタウンコアを対象に、マレー半島の地理的・文化的関係性を読み取るため、東・東南アジア広域に広がるプラナカン文化について調査した。URAの都市計画図を参考資料に、華人が居住する3か所の歴史地区を訪ね、立地環境、住宅ファサード、住宅の内部プランについて調査し、居住者への聞取りを行った。 これらの国と地域では、住宅と住まい方にどのような共通性と差異性を有するのか、家族構成や空間利用についても調査を行い、CADデータとしてまとめ、次年度以降の空間分析資料として扱う。国内では、神戸華僑歴史博物館および長崎歴史文化博物館にて、両地域の華僑文化と都市形成の歴史について文献調査を進め、金門島から日本に移住した華僑に関する資料を収集した。現在、金門島を郷里とする華僑へのインタビューをとりまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、金門島をとりまく東・東南アジアの居住環境に見る共通性と多様性について、環境デザイン、集落計画学、生活学などの視点を持って、地域的枠組みを越えた空間の分析手法を確立する。現地調査と文献調査を主軸に、金門島の居住環境を持続・発展させている空間要素と、移住によって新しく形成された南洋地域の空間特性を見出していく。集落を構成している①環境要素(立地選定、土地利用、方位軸)、②建築要素(住居形態、規模、住み分け)、③文化要素(風俗習慣、生活様式、祭事)の解明を通して、島嶼における居住空間の固有性について分析・考察し、移住先の南洋地域との空間特性比較から、民族・地域環境・生活文化との関係性を明らかにする。東・東南アジアにおける居住空間の歴史的変遷と共通性を見出し、人の移動によって生まれた居住環境の越境性はどのように継承されていくのか、初年度の研究成果をもとに、以下のように進めていく。 2018年度は、金門島に現存する全集落のデータベースを作成し、代表事例集落を選定する。現地調査を通して集落の居住域・生産域・聖域にみる面的要素、道路・水系などの線的要素を明らかにし、空間構造を読み解いていく。さらに南洋地域において、華人居住地区の居住環境および住宅を対象に、金門とマレー文化が融合したプラナカンの建築・居住空間・周辺環境の空間特性について調査を進める。 2019年度は、日常の暮らしにおけるミクロな空間スケールを考現学の視点から考察し、公的領域、私的領域、機能領域の3つの空間から、生活行為と住まいの関係について明らかにする。民族性、地域性、環境性などの多様な条件を受け、金門島および南洋地域の生活空間や生活文化がどのような特色を有しているのか、居住者への「住まいと文化」に関する聞き取り調査を軸に分析・考察する。
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