最終年度は前年度までの研究で明らかになった移民送出の地-母村である金門島と、新たな移住先となったマレー半島の居住環境分析を進めながら、3年間の研究総括を行った。来年度以降の学会発表準備を進め、現地に成果を還元する研究報告書(冊子)の作成に取り組んだ。 1)金門島・小金門島の伝統的集落(143集落)を対象に行った調査では、居住者の主要姓氏と彼らの出身地および島内・島外への再移住先を昨年度までにまとめ、今年度は全集落の空間概念図を作成し、立地特性と集落・民居の方向性について分析を行った。さらに、前年度に実施した典型事例集落の補足調査を実施し、南洋建築との比較対象として洋樓の間取りや居室用途などの空間分析項目を記録・整理し、文献調査を行った。 2)昨年度調査したマレーシア・マラッカおよびペナンに現存する住居の実測図面をまとめ、建築形態の異なる華人の住まいと現地マレー人の住まいを比較・考察した。夏季にはペナンに現存する中華系移民の水上集落と周辺環境の悉皆調査を展開し、住居の集合方法と個々の建物が持つ物理的構成の理解を深めた。福建沿岸、金門島から南洋に移動した歴史的経緯と水上住まいの様式について、実測・聞取り・観察調査から分析を試みた。 3)シンガポールのBlair Plain地区を対象とした中華系移民の初期の住居図面を入手し、現況図面との比較から、住居の原型と変容の過程について調査を進めた。金門島、台湾、マレーシアでの実測および文献調査で明らかになった街屋型住居との空間比較から、相関性と共通性を見出していく。シンガポールでは3月にコロナウイルス感染症拡大防止策として外出制限が発令されたため、年度末に確認・補足のために予定していた実測の一部が実施できなかった。これについては、現地の国立図書館アーカイブ資料を用いて補完する。
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