研究課題/領域番号 |
17H04867
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研究機関 | 認定NPO法人量子化学研究協会 |
研究代表者 |
中嶋 浩之 認定NPO法人量子化学研究協会, 研究所, 部門長 (80447911)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Non-BOシュレーディンガー方程式 / 自由完員関数法 / 解析的ポテンシャルカーブ |
研究実績の概要 |
本研究は、自由完員関数法に基づきNon-Born-Oppenheimer (Non-BO) シュレーディンガー方程式を正確に解く理論と、One shotのNon-BO計算から電子基底・励起状態の解析的なポテンシャル曲面を得る理論を展開し、これを化学研究へ応用するための計算手法とプログラム開発を行うことを目的としている。 これまで、Non-BO計算の基礎となるBO近似での電子の波動関数を正確かつ効率的に記述するための理論開発を行ってきた。局所性に基づく波動関数構築法を用いて、様々な原子・分子の基底・励起状態の計算を行い、シュレーディンガー・レベルの精度(化学精度)を満足する解を得た。また、必要な関数群を選択する方法によって少ない自由度で波動関数を効率的に記述する方法などを提案した。これらは、局所性の利用は従来の非局在的分子軌道法にはない性質であり、あらゆる量子状態に対応するNon-BO波動関数を少ない自由度で効率的かつ精密に記述する上で重要である。本研究では、積分を用いる変分法に基づく計算法と、積分フリーなサンプリング法であるLocal Schroedinger Equation (LSE) 法に基づく方法を同時に開発している。前者は、積分可能であることが前提として必要なため、電子・振動・回転運動を記述するNon-BO波動関数でも積分可能な関数形の導入を検討している。後者は、原理的にどのような分子でも関数形でも扱うことができる利点があるが、サンプリング依存性をできるだけ減らす必要がある。そのため、波動関数のexactnessをより向上する方法や振動・回転運動を含むNon-BO波動関数に適したサンプリング点生成法の開発を進めている。また、ポテンシャルカーブの記述のため、電子座標のみの積分に対応するサンプリング手法の開発も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所的波動関数構築法に基づき、原子価結合法によって電子波動関数を構築し、これに振動・回転波動関数を付加し、これを出発関数として自由完員関数理論を適用することによって正確なNon-BO波動関数を構築する方法を開発してきた。 変分法(積分法)の展開では、ごく簡単なH2+分子では様々な電子・振動・回転基底・励起量子状態が計算され、同位体に対しNon-BO効果を含むNon-BO解析的ポテンシャルカーブの計算などを行ってきた。また、分子に有利なGauss関数を粒子間相関関数に対しても用いる方法を検討し、一般分子のNon-BO計算に向けた積分法の開発を進めてきた。Slater関数が適した電子波動関数もGauss関数で記述することによる不利があるが、積分可能という点で一般性が期待できる。変分法による計算では、例えば、エネルギー準位が近接する電子励起状態の振動・回転準位の計算など、重要な応用が期待できる。 LSE法の展開では、簡単な2原子分子とその同位体分子の電子基底状態と電子励起状態のNon-BO計算を行った。電子励起状態に対するNon-BO計算の報告はほとんどないが、本理論ではそれらも容易に計算できることが分かった。現在、これを一般分子に応用するためのプログラムを開発している。 これらの進捗を踏まえ、「(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、自由完員関数法による分子の正確なNon-BO計算を行うための理論と計算プログラム開発を行う。変分原理に裏付けされ安定な計算が可能な変分法と、積分を必要としないLSE法を用いる計算手法を同時に開発し、互いのメリットを生かしながら計算を進める。電子部分の波動関数は、これまでBO近似シュレーディンガー方程式の解法として培ってきた局所的波動関数構築法を応用する。 変分法の展開では、Gauss関数を利用する方法によってNon-BO系の積分が容易に計算可能であることが分かり、一般分子に向けた積分法とプログラム開発を進める。BO近似を超える物理効果として、電子・振動・回転状態間の励起エネルギーの精密な理論検証を行い、特に、実験での同定が困難で理論計算の報告もほとんどない電子励起状態の振動・回転準位の正確な計算を行う。Non-BO波動関数からポテンシャルカーブを逆算する方法においても、Gauss関数を利用することによって電子部分のみ積分する部分積分が容易になるため、様々な分子へ応用可能な一般的な計算法として確立する。これを、通常の化学結合のポテンシャル面だけでなく、複雑なポテンシャル面を持つ電子励起状態や二重井戸ポテンシャル面を持つトンネル化学反応、同位体や核スピンの量子効果を含むポテンシャル面など、量子的性質が顕著な現象へも応用する。 LSE法の展開では、積分に依らずどのような関数形も取り扱うことができるメリットを生かし、正確なNon-BO波動関数を効率的に得るために適した初期関数やスケーリング関数を探索する。世界的に未だ精密解が求められていない3原子分子以上の一般的な多原子分子や電子励起状態のNon-BO解の計算に応用する。
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