研究課題/領域番号 |
17H06138
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
初貝 安弘 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80218495)
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研究分担者 |
高橋 義朗 京都大学, 理学研究科, 教授 (40226907)
木村 昭夫 広島大学, 理学研究科, 教授 (00272534)
福井 隆裕 茨城大学, 理学部, 教授 (10322009)
河原林 透 東邦大学, 理学部, 教授 (90251488)
青木 秀夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 名誉教授 (50114351)
岩本 敏 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (40359667)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | バルク・エッジ対応 / トポロジカル相 / 冷却原子 / 角度分解光電子分光 / フォトニック結晶 / エッジ状態 / トポロジカルポンプ / ワイル半金属 |
研究実績の概要 |
研究開始冒頭H29年6月にバルクエッジ対応をキーワードに実験-理論-数学にわたる35名の参加者でブレーンストーミングを行う研究集会を主催し分野間の交流を重視する本基盤研究の基礎とした。その基礎の上に本年度は以下の研究を実施した。 独自の発案による新トポロジカル数であるエンタングルメントチャーン数の3次元のトポロジカル相での意義を明確とした。またバルクエッジ対応の電子相関効果の研究に必須な格子上の擬ポテンシャル構築に成功しグラフェンのトポロジカルな相転移を発見した。更に3次元のトポロジカルな電磁ポンプの理論と平坦バンド超伝導の示唆を得た。 相互作用のない171Yb原子のサウレスポンプ測定で準周期ポテンシャルの系統的研究を行い,斥力相互作用する173Yb原子でも類似の測定を実施した。またトポロジカル超流動を目指し173Yb原子の軌道フェッシュバッハ共鳴の観測とスピン軌道相互作用類似の光励起を行った。また171Yb原子では軌道フェッシュバッハ共鳴が期待できないことも明確にした。 異常量子ホール効果を示す磁性トポロジカル絶縁体の表面ディラック電子の動的観察と内殻吸収円二色性実験でバルク強磁性発現機構の知見を得た。ノンシンモルフィックな空間群に属するLaSnTeやHfSiSおよびZrSiS単結晶試料の放射光ARPESで縮退バンドやディラック線ノードの表面状態観測を行いバルクと表面状態の軌道成分を特定し,またスピン分解測定で表面状態の波数空間でのスピン構造を明らかにした。 半導体フォトニック結晶のバンドトポロジー制御でトポロジカルな局在状態観測に成功し,光の共振器モードとしたレーザ発振を実現した。バレーフォトニック結晶スラブ作製に成功し光学特性の初期結果を得た。 なおH30年1月に研究の国際化のために4日間の国際ワークショップを主催した。また筑波大学で助教1名を本研究費で雇用開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下当初の予定を越えた具体的な研究進展に関して列挙する。①我々が提案してきた量子エンタングルメントを解きほぐす縮約密度行列の手法が高次のトポロジカル相とそこでのバルクエッジ対応でも有効であることの示唆を得た。このアイデアの一部はは本基盤研究が主催した数学者との研究交流から生まれたものである。②冷却原子班での準周期ポテンシャルの影響を理論と比較することでこの現象がトポロジカル相転移を示唆するとの予想外の結果を得た。③ディラック線ノード半金属のスピン分解ARPESによる表面スピンテクスチャの直接的観測によりバルクエッジ対応に関する系統的理解が加速する示唆を得た。④フォトニック結晶でのトポロジカルな局在状態を使ったナノ共振器レーザに実現に初めて成功するなど当初予定を超える成果があり,石英で作製した擬一次元フォノニック結晶において弾性波のトポロジカル局在状態の観測とイメージングに成功し、その結果は Applied Physics Express誌のspotlightsに選ばれた。 更に研究計画,初年度であるにも関わらずH30年1月5日-8日に国際ワークショップ(BEC2018)を海外からの招聘講演者10名7ヶ国、32講演,21ポスター全講演登録参加者73名という規模で開催した。本国際ワークショップでは最先端の研究を行っている研究者を招聘し,最新の情報を交換するとともに,本基盤研究の初年度の研究成果並びに本基盤研究の目的を世界に広く公開した。このワークショップではトポロジカル相に興味をもつ数学から実験物理にわたる広範な分野の最先端の情報と成果を参加者で共有することができ,多様な分野の専門性の高い研究者がバルクエッジ対応を共通のキーワードとして最先端の研究交流を行うことができたとして,国際的な好評を得ることができた。以上をもって,研究計画は予想以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル相,バルクエッジ対応における電子相関の効果,トポロジカルな量子相転移に関してをベリー接続や我々が提案している縮約密度行列の固有ベクトルを用いた新しい量子数(エンタングルメント量子数)を用いて明らかにする。その際に数学者との交流で得られた新しい視点を取り込み独自性ある研究を行う。 冷却原子に関して様々な準周期ポテンシャルに対して実験を行い理論と比較するとともに斥力相互作用するフェルミ原子173Yb原子でのサウレスポンプの準周期ポテンシャルの影響を系統的に測定することで相互作用に対するサウレスポンプの堅牢性の程度を明らかにする。またトポロジカル超流動に向けたEr原子の冷却実験も開始する。 ARPES実験においてはH29年度で得られた実験結果をもとに、本基盤研究の理論メンバーと意見交換することによりディラック線ノード半金属のバルクエッジ対応について系統的な理解を得ることを目指す。また放射光ARPESを用いて銅酸化物超伝導体のアンドレーエフ束縛状態の観測を進め奇周波数クーパー対形成や関連するバルクエッジ対応についての展開を目指す。 フォトニック結晶においてバレーフォトニック結晶における光学特性の詳細評価を行い,その有効性と優位性に関して詳細に検討する。また理論グループとの連携を更に密にすることで,フォトニック結晶構造におけるバンドトポロジーの制御とその応用に関する可能性を詳しく検討する。 また,今年度も国際研究集会開催や人的交流など国際性ある研究活動を継続的に行い,本基盤研究の国際性を担保する。また若手研究者の育成にも留意し,分野横断の学理構築とその展開を目指す。
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