本研究は、米国の政府系ボランティア組織ピースコー(Peace Corps)の隊員撤退の要因・経緯・撤退時のプロセスを公文書から分析し、これまで注目されてこなかった政府系ボランティア組織を取り巻く安全に関する検証を行った。安全が懸念される地域における人道支援や開発援助に関する研究は、国連職員や欧米の主要な NGO 職員を対象としており(e.g. Fast 2010)、国際ボランティア組織を対象とした研究は少ない。しかしながら、ピースコーは冷戦時に相次ぐ任国からの撤退を経験しているにも関わらず、隊員がどのように任国から撤退したのか、当時の彼らを取り巻く安全状況に関しても研究がされてこなかった。この点を明らかにするために、2018年には、主にボリビア(反米運動)・ドミニカ共和国(米国による軍事侵攻)・ペルー(地震)の三カ国のピースコーの任国に絞り、アーカイブ調査を米国で進め、ひとつの結論を導いた。 ピースコーの撤退には、災害や治安悪化が主な要因とは限らず、米国と任国の間における政治的な問題や反発によって、ピースコーが撤退せざる得ない、または撤退を検討さざるえない状況が冷戦時には起こっていたことがわかった。これは、ピースコーが他の政府系国際ボランティ ア組織と比較し、任国からの撤退が多かった要因のひとつと結論づけられる。 本科研の最終年度の2018年には、日本ラテンアメリか学会(6月)と国際開発学会(11月)にて本科研費のテーマにて学会発表を行った。2018年12月には本科研費で収集したデータをもとに執筆した論文の投稿を行った。2019年5月現在は、査読結果を受取り原稿のリバイス作業中である。
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