研究課題/領域番号 |
17H06969
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
田中 宏 熊本大学, 発生医学研究所, 特定事業研究員 (20802127)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 老化 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
「細胞老化」はストレスを受けた細胞が増殖能を失う細胞応答の一種であり、がんに対する増殖抑制機能を果たす一方で、加齢などによる老化細胞の蓄積は組織の機能低下を引き起こす。老化した細胞は核内における遺伝子発現ならびに遺伝子発現を制御するDNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティック調節機構が若い細胞と比べてゲノムワイドに変化していることが報告されているが、どのようなエピジェネティック因子が関わっているかあまり分かっていない。申請者は、siRNAライブラリーを用いたスクリーニングを行い、2017年に論文報告を行ったSETD8ヒストンメチル基転移酵素をはじめ、複数の細胞老化関連エピジェネティック修飾因子を見出した。 現在主に解析中の因子は、siRNAを用いたノックダウンによりヒト線維芽細胞において細胞増殖の低下ならびに細胞老化マーカーである細胞老化関連ベータガラクトシダーゼ活性の増加を引き起こすことから、本因子の発現低下は細胞老化を促進することが示唆された。また、がん遺伝子誘導による細胞老化(oncogene-induced senescence, 以下OIS)ならびに継代を繰り返すことで誘導される細胞老化(replicative senescence, 以下RS)において本因子の発現量が低下していることが確認された。本因子の発現低下がどのように細胞老化の促進に関わるか明らかにするため、本因子をノックダウンした細胞の遺伝子発現変化をmRNA-Seqにより網羅的に解析した。その結果、ノックダウン後の初期の段階で細胞増殖やDNA損傷修復に関連する遺伝子発現が低下していた。またクロマチン免疫沈降により、本因子はこれらの遺伝子上に結合することが確認された。これらのことから、本因子は細胞増殖ならびにDNA損傷修復を促進することで細胞老化を防ぐ役割を果たしていることが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、スクリーニングにより得られたエピジェネティック修飾因子がどのように細胞老化に関わるか、その分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。網羅的な遺伝子発現解析ならびにクロマチン免疫沈降により、検証中の因子が細胞増殖やDNA損傷修復に関連する遺伝子の発現を維持する役割を果たしている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、スクリーニングによって得られたエピジェネティック修飾因子が細胞老化に関連する遺伝子の発現制御に関わることが分かってきたが、どのようにして特定の遺伝子のみの発現制御に関わるかまだ明らかになっていない。本因子がこれらの遺伝子上に特異的に結合するメカニズムの解明ならびにこれらの遺伝子の発現を制御するヒストン修飾の変化を明らかにする。 また、本因子が細胞老化の過程で発現量が低下するメカニズムの解明を行う。現在、ゲノム上で本因子の遺伝子領域に集積する転写因子またはエピジェネティック修飾の候補が複数得られており、これらの制御因子がNSD2の発現ならびに細胞老化に果たす役割を明らかにする。
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