臨床における多様な文化や価値観の中での適切なスピリチュアルケア実践のための倫理と技術に関する理論構築が本研究の目的である。 東日本大震災の被災者の苦悩に向きあい、支援活動を続ける宗教者のボランティアのインタビューを集めた。データから実践者に求められる倫理性や共感の能力がどのように成長していったかという視点で分析を進めた。対象は伝統宗教であり、日本人にもなじみのある仏教・キリスト教の背景を持つボランティアである。神職は祭りの再興などでコミュニティ作りで復興に貢献したところが多く、相談活動などをしていない場合もあるため除外した。新宗教は布教目的で入っている場合もあり、研究者自身が支援の内容に関する情報を十分に把握できないため、除外した。 修正版グランデッドセオリーの手法を用い質的機能的に分析した結果、 “お互いの異なる文化・価値観を超えて共に涙し喜び生きていける関係になっていく。”と定義した「共に生きていける関係へ」という中心概念が抽出された。(「 」内は抽出された概念を表す。)支援者の実践として、異文化との遭遇、実践者の態度に関する概念が、実践者の実践の中での自己発見に関する概念、「ともに認め合える」関係生成という概念が抽出された。 被災地での同じ地域に住んでいながらも、異文化を持つ人々との出会いによって起こった霊的探索の中で、相手を主体とする姿勢と相手の目線で理解しようとする態度から、互いの文化、価値観を超えて自他の出会いが生まれ、互いの境界が広がり、互いに尊重し合う関係を得るといったケアの現象のプロセスが明らかになった。インタビューデータの分析はまだ途中であり、今後理論的飽和化(データ収集と分析を終結させる判断)に向けてさらに分析を進めて現象をモデル化していく予定である。
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